「スーパー牛」が世界席巻=6億円〝畜産界のセレブ〟扱い

440万ドルの値がついた「ヴィアチナ19号」(Foto: Divulgação/Casa Branca Agropastoril)
440万ドルの値がついた「ヴィアチナ19号」(Foto: Divulgação/Casa Branca Agropastoril)

 南東部ミナス・ジェライス州ウベラバで4月26日〜5月4日、世界最大規模のゼブー牛(コブウシ)展示会「エクスポ・ゼブー(ExpoZebu)」が開催され、世界から牧畜業関係者やバイヤーが詰めかけた。展示されたのは肉質、体型、遺伝的特性などの観点から選抜された「スーパー牛」と呼ばれる改良種の個体群だ。その存在は今や単なる畜産の枠を超え、国家の食料戦略や国際貿易の動向を左右する象徴となり、ブラジルが世界の食肉市場で圧倒的な存在感を示していると、14日付の英誌「エコノミスト」(1)(2)が報じた。
 毎年開催されるこの展示会では、乳房の発達や骨格、筋肉のつき方などを細かく審査する品評会が開かれ、審査員らは外見的特徴の微妙な差異に基づいて評価を下す。選ばれた個体は、形状のみならず遺伝的優位性も兼ね備えた「チャンピオン牛」とされ、高額な値がつく。2023年にはゼブー系ネロール種の雌牛「ヴィアチナ19号」が、史上最高額となる約440万ドル(約6億円)で取引された。
 インド原産のゼブー牛は暑さや寄生虫への耐性に優れているとされ、19世紀にブラジルへ導入された後、欧州系品種に代わって国内主流となった。その外見的な特徴である大きな肩のコブはクッピン(cupim)と呼ばれ、ブラジルの肉料理シュラスコでは欠かせない部位だ。現在、国内の牛の約8割をゼブー系が占め、飼育頭数は約2億3900万頭にのぼる。ゼブーの普及と改良によって、かつて飢餓が深刻だったブラジルは、世界有数の牛肉生産国、輸出国へと成長を遂げた。
 その背景には、70年代以降の農業政策の転換がある。軍政下で農業への投資が強化され、農業研究公社(Embrapa)が設立された。同機関は、熱帯気候に適した農作物や飼料の研究や、乾燥に強いアフリカ原産の牧草「ブラキアリア」の導入を進め、牧畜近代化を加速させた。並行して進められた品種改良により、食肉用に出荷される牛の平均体重は97年以降16%増加した。
 現在では繁殖用としての価値も高まり、人気個体には複数の共同オーナーがつく。各オーナーは年間数カ月ずつ採卵権を持ち、受精卵の販売によって収益を得る仕組み。高額個体はクローン化され、遺伝的特性が維持される。展示会には約40万人が来場し、関連オークションの取引総額は3500万ドルに達した。
 「スーパー牛」は今や一種のブランドとして扱われ、「レディー・ガガ」や「ジンギス・カン」など著名人にちなんだ名前が付けられ、飼育には美容管理が徹底される。毛は毎日シャンプーで洗浄され、角にはひまわり油が塗布されるほか、専用輸送トラックで移動するなど、まさに〝畜産界のセレブ〟扱いだ。
 こうした品質向上を背景に、ブラジル産牛肉は世界市場での存在感を高めている。近く、世界動物保健機関(WOAH)がブラジルを口蹄疫の清浄国と認定する見通しで、これにより、従来輸入規制を設けていた国々もブラジル産牛肉の受け入れを拡大するとみられる。

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