【19日の市況】ブラジル株式市場、過去最高値を更新 イボベスパ、初の14万ポイント台に乗せる

 ブラジル株式市場の代表的な株価指数であるイボベスパ指数が19日、取引時間中に史上初めて14万ポイントの大台を突破し、取引終了時点でも過去最高の水準を記録した。景気指標の改善や国外からの資金流入が背景にある。米国では格付け会社による信用格下げを受け、主要株価指数が伸び悩む中、ブラジル市場の力強さが際立っている。

 この日、イボベスパは午後1時5分(ブラジリア時間)に一時14万203.04ポイントまで上昇し、取引終盤にやや反落したものの、前日比0.32%高の13万9636.41ポイントで取引を終えた。終値ベースでもこれまでの最高値(5月15日記録の13万9334.38ポイント)を更新した。

 為替市場では、商業ドルが2営業日連続で下落し、対レアルで0.25%安の1ドル=5.655レアルを付けた。金利先物(DI)も序盤こそ上昇したが、取引終了時には軒並み低下した。

米国格下げの逆風を追い風に転じたブラジル

 今回のブラジル市場の上昇は、米格付け会社ムーディーズが16日に米国債の格付けを最上級の「Aaa」から「Aa1」に引き下げたことによる米国市場の混乱をよそに進んだ。米国の債務拡大と利払い負担の増大に対する懸念が背景にある。

 XPインベストメントのチーフエコノミストであるカイオ・メガレ氏は「先週はトランプ政権の関税政策をめぐる警戒感がやや後退し、米ドルが上昇していたが、今回の格下げは米国の財政状況に対する構造的な懸念を反映している」と指摘する。

 一方、ブラジルでは、中央銀行が発表する経済活動指数(IBC-Br)が3月に予想を上回る伸びを示し、経済の底堅さが改めて確認された。財務省も今年のGDP成長率の見通しを上方修正している。

 また、中央銀行のガブリエル・ガリポロ総裁が金融政策について「インフレ抑制のために当面は高金利を維持する必要がある」と改めて強調したことも、投資家の信頼感を高め、イボベスパの上昇を後押しした。

主力銘柄の下げを吸収 市場全体が底堅く

 今回のイボベスパの上昇は、主要銘柄の下落をものともせずに達成された。資源大手ヴァーレ(VALE3)は0.27%安、国営石油会社ペトロブラス(PETR4)は0.12%安と軟調だった。ペトロブラスは国際原油価格が一時上昇したものの、終始方向感に欠けた展開だった。

 金融株では、ブラジル銀行(BBAS3)が第1四半期決算の低調さを受けて2.45%下落したが、民間大手のブラデスコ(BBDC4)が0.91%、イタウ・ウニバンコ(ITUB4)が1.19%、サンタンデール・ブラジル(SANB11)が1.49%と堅調で、銀行セクター全体としては相場を支えた。

 医療保険大手ハプヴィダ(HAPV3)は横ばいで引けたものの、先週発表の好決算を受け、取引中は上昇する場面が多かった。食肉加工業者はまちまちで、前週16%超上昇したマーフリグ(MRFG3)が6.42%下落し、BRF(BRFS3)も1.35%安となった。鳥インフルエンザへの警戒が続く。一方でJBS(JBSS3)は、二重上場に備える戦略が評価され、3.06%高と上昇した。

 インフラ関連では、エコロドヴィアス(ECOR3)が2.37%高、モティバ(MOTV3)も0.74%上昇し、XPインベストメントの「買い」推奨が材料視された。

外国人投資家がけん引 割安感と金利見通しが追い風

 イボベスパ上昇の最大の原動力は、外国人投資家による買い越しにある。リコ・インベストメントによれば、外国人は現物株取引の50%超を占めており、今年に入り明確に買い姿勢を強めている。

 リコのアナリスト、ブルーナ・セネ氏は、(1)米国からの資金シフト、(2)割安な株価水準、(3)金利上昇サイクルの終了期待、を主な要因に挙げる。なかでも、企業収益の安定性や配当利回りの高さが評価されているという。

 これにより、小売や建設などの景気敏感株が見直される一方、公益や通信、金融などのディフェンシブ銘柄も底堅く推移し、相場全体の押し上げに寄与している。

今後の展望:まだ上値余地ありとの見方

 シーモ・ファミリー・オフィスのエコノミスト、フアン・シアーヴォ氏は、「イボベスパは名目では過去最高水準にあるが、株価収益率(PER)は過去平均よりも低く、依然として割安感がある」と指摘する。

 金利引き下げ局面が本格化すれば、特に個人投資家の株式投資が拡大し、相場の一段高も見込める。XPインベストメントも、2025年末のイボベスパ目標値を14万9000ポイントに据え置き、「依然として割安であり、相場上昇余地は大きい」との見解を示した。

外部環境も追い風 選挙・金利が次の焦点に

 JPMorganは、2025年のブラジル市場がグローバル市場の中でも突出したパフォーマンスを記録していると評価する。同社によれば、政治・財政面での課題は残るものの、(1)世界的な貿易関税の影響が限定的であること、(2)企業業績が堅調であること、(3)実質金利の高さが通貨を支えていることなどが、資金流入を支えている。

 今後は、12月にも始まるとされる金利引き下げ局面と、2026年の大統領選に向けた政治情勢が相場のカギを握ると見られている。JPMorganは、12月に政策金利(Selic)を15%から引き下げ、最終的には10.75%まで下がると予測している。

 選挙に関しては、現職ルーラ大統領の支持率推移と、ボルソナロ前大統領に代わる候補の行方が注目される。サンパウロ州知事のタルシジオ・デ・フレイタス氏が有力とされるが、ボルソナロ氏の家族による出馬の可能性も取り沙汰されている。

ラテンアメリカ市場、調整局面も

 JPMorganはまた、年初から大きく上昇したラテンアメリカ市場は、今後は一時的な調整を経て横ばいに推移する可能性があると指摘する。特に中国と米国の貿易関係が改善し、アジア市場が再び注目される中、ラテンアメリカ市場の優位性は限定的になる可能性もある。

 域内の経済成長は鈍化が見込まれ、企業収益にも影響を与える見通し。さらに、FRB(米連邦準備制度)が利上げを見送る方針を維持する場合、ラテンアメリカ各国の中央銀行は金融緩和に慎重にならざるを得ない。

 テクノロジー分野の比重が小さいラテンアメリカ市場にとって、グローバルセクターへの資金シフトも逆風となる可能性がある。

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