
「JICAのおかげで何度か日本に研修に行ったんですよ。和菓子の講習にも行きました」と、サンジョアキン日本文化体育協会会長、山口宏司さんの妻で、日本語教師の山口千明さん(62歳)が話しかけてきてくれた。
「今は60家族ほどサンジョアキンに住んでいるけど、あまり日本人会に参加しない。JICAの講義でも聞いたけど、昔は必要性を感じていたから交流していたけど、今は成功してしまって日本語学校とか会館に行く必要がなく、家族と海に行ったりして過ごしている。だからどうしたらつながりを維持できるか考え、運動会もプログラムを変えて子どもたちに興味を持ってもらえるようにしているんです」と日本人会を継続していく悩みを打ち明けてくれた。

サンジョアキンにもJICAが支援した日本語モデル校があり、立派な建物があるが、現在は市役所に貸し出してしまっているそうだ。「でも私が日本語を教えているから、市長さんが一部屋を残してくれて、そこで日本語を教えています。今は5歳と6歳のハーフの二人の生徒だけです。ハーフだから、10歳ぐらいで日本人学校をやめてしまうんですよね。日本語能力試験対策を高校生に教えていたけど、大学に行くとやめてしまうし」と、参加者のブラジル日本語センター矢野敬崇理事長の妻、テレーザ三重子さんとフジノミチコさんに相談。二人から「オンラインレッスンをやってみて」とアドバイスをもらい、勇気づけられていた。

交流の時間はあっという間に過ぎ、会館を後にして、Villa Francioniというワイナリーに向かった。高台に位置した、美しいレンガ造りの建物で、まるで美術館のようだ。ブラジルでは現在保存のため、イペーとジャカランダとパラナ松は切ってはいけないので、それらの木材は非常に高価だそうだが、そのパラナ松を使い、陶器も古いものを使った貴重な建物なのだという。
こちらのワイナリーの元オーナーは、セラミカ(陶器)で財を成したジョミソ・フレイタス氏の息子で、人生の最後にワインを作りたいから一緒にやろうと誘われ、平上文雄さんが、フジりんごだけでなく、ブドウを作り始めることになったそうだ。彼は、サンジョアキン・コロニア30周年式典にも出てくれたそうだが、そのすぐ後に急逝し、ワインが売れるのを一本も見られなかったそうだ。今は娘が後を継いでいるという。

平上さんは、「ここのワイナリーで25年ワインを作ってきた。だから今度は自分のところでワイナリーを作ろうかと、息子にやらせている」。ワインのことは素人だそうだが「サンジョアキンはいいUva(ブドウ)ができるから、勝手にいいワインができる」とか、「ワインを寝かせる樽は、フランスから輸入していて、一つ2400ドル(約1万4000レアル)もする。板の値打ちがなくなるから、4年間、たったの4回しか使えない。この建物は、ワインの生産工程を経ると同時に、高い所から下に自然にワインが流れる構造になっていて、ポンプを使わない」とか、「Torii(鳥居)をワインのブランド名とマークにした。そうすると日本人が作ってるちゅうて、すぐわかる」となかなかどうして、ワインとそのマーケティングに関する知識はとても豊富だ。ワインは生産にとてもコストがかかるため、ビールのように手軽な価格では手に入らないのがわかった。
ここで作られた平上さんのワインは樽から瓶詰めされた後、平上農園に運ばれ、温度が変わらないように貯蔵されて、「TORII」や「KANPAI」ブランドのラベルが張られ、出荷されるそうだ。
このワイナリーには「ブラジルで最もおいしいロゼワイン」として表彰されたワインがあり、試飲や購入をして、ワインナリーを後にした。(麻生公子記者、つづく)