
ブラジル地理統計院(IBGE)が発表した「逆さまの世界地図」が、国内で賛否両論を巻き起こしている。8日付CNNブラジル(1)によると、IBGEのマルシオ・ポシュマン院長は、ブラジルを地図の中央に据え、南を上にした「逆さまの地図」を5月7日にSNS上で公開した。同氏はこの取り組みについて「BRICSやメルコスール、2025年のCOP30など、国際フォーラムにおけるブラジルのリーダーシップを象徴するもの」だと述べ、国家としての存在感を視覚的に訴える意図を明らかにした。
この新たな地図は、2024年に発表された学校用地理アトラスに続く試みであり、11月のパラー州ベレン市でのCOP30開催を前に、国際的な注目を集める狙いがある。しかし、この「象徴的地図」は技術者や職員の間で波紋を広げている。
9日付CNNブラジル(2)によれば、同日、IBGE全国労働者組合協会(ASSIBGE-SN)はSNS上で抗議声明を発表し、「逆さまの地図は、現実の伝達ではなく歪曲をもたらし、IBGEが長年築いてきた国際的な信頼を損なうものだ」と強く批判した。
声明では、視覚的な象徴を「虚栄」と断じ、教育現場や国際比較に混乱をもたらす恐れを指摘。現政権によるIBGEの「政治的利用」とも受け取れる今回の方針に対し、制度的・技術的な中立性の軽視を問題視している。
組合側は、真に国際的な尊敬は「象徴」ではなく、「透明性あるデータと一貫した公共政策」によって得られると主張。現在のIBGEの方向性を「見せかけを優先する国家像の反映」とし、「虚栄の地図」にノーを突き付けた。
声明ではさらに「存在する前に見せかけようとする」ことへの警鐘として作家マシャード・デ・アシスの言葉を引用し、「外見で栄光を得ようとする幻想」と批判。IBGEを「国家的虚栄の象徴」にする行為は、国民が必要とする「真実・責任・誠実さ」から遠ざけるものだと強く訴えた。
ポシュマン氏は労働者党政権下で、ルーラ大統領からIBGE院長に任命された経済学者であり、以前から政府寄りと批判される言動も見られた。今回の「逆さま地図」もまた、国家の誇りを視覚的に示そうとする象徴的行為として評価される一方で、国家機関としての技術的中立性と信頼性が問われる事態となっている。
地図上で国を上に置いたとしても、国の真の位置づけは制度と誠実さで築かれるべきだという問いが、今、IBGEに突きつけられている。