ブラジル マンダカルー物語=黒木千阿子=(8)

 たったの10才だというネンネが軽々と斧を振り上げて薪を割っていました。
 コーン、コーンという音が山に響くと、ネンネの力強い斧さばきは、一層大人びて見えました。
 セリアはその横で、マンジョッカ(キャッサバの芋=トウダイグサ科の熱帯低木のサツマイモに似た根塊)を小さく叩きつぶして、家畜の餌を作っていました。と、お母さんの声。
 「セリア、食器を洗いなさい」
 セリアは、ブツブツ言いながら台所に向かいました。
 皆さんは、『セリア』の名はもうご存じでしょう。
 そうです。サンパウロからマンダカルーに移った最初の夜、私と一緒にダンボールの上に寝たマリーの妹で、カイオのお守り役だったあの子です。
 ところがこのセリアがここにいるには、こんないきさつがあるのです。
 そのいきさつとは、若いセリアが、自分の夫のアントニオの前でお尻を振って歩くのが、マリーにとっては気に入らず、「すぐここを出てふるさとに帰りなさい」、ということになって山の家族のもとに帰された、と、まあこんなことですが・・・・。
 その時は私が間に入ってセリアをかばい「お尻というものは、歩けば揺れるようになっているものよ。ホラ、見てごらん」と言って、私が実演して見せたのですが、マリーは首を振って、「セリアの揺れ方は、挑発的で危険だから許せない」と、目をつりあげたのでした。
 こんなこともあってか、セリアはふるさとの中でもマリーを避けているようでしたが、私には人懐っこく応じておりました。
 私が台所に顔を出しますと、皿洗いの手を休ませもせず、セリアがいきなり言うのです。「あのテレビドラマの続きを話してよ」
 私が大雑把にドラマのストーリーをまとめて話してあげると、突然ドッキリする事を言ったのです。
 「それであの男と女はもう寝たのか?」
 私は、こっちの恥ずかしさを隠そうと、とっさに叫んでしまいました。
 「当たり前よう!」
 そう言ってしまってから、後悔しました。
 まだ、大人になりかけの娘の前でとんだことを言ってしまって・・・と。

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