こうして、みんなでてっぺんに辿り着いた時、マリーもカイオも大はしゃぎ。私は、幾つも重なり合った山々に向かって叫びました。
「ヤッホー!」「ヤッホー!」
山彦がすぐに応えてきました。
私は大喜びして、日本の山を思い浮かべながら、もう一度叫びました。
「アリガト!」、「アリガト!」
すると、山彦がこんなふうに聞こえてきたのです。
「ヨカッタネー!、オメデトー!」
それは、懐かしい祖国の匂いと、肌に染みついているあのふるさとを蘇らせてくれたのです。
山はだんだん深まって、耳を打つ蝉の合唱も最高潮に達しました。
と、青空と濃い緑の間から、ロバに跨った一人の少年が現れました。
マリーの弟のネンネでした。
私たちは、とうとうマリーのお父さんの農場に辿り着いたのです。
放牧された牛や馬、木陰で休むロバの親子、そして群れながら草を食べている羊たち。どれも一幅の絵になる美しい光景でした。
私もこの美しい大自然の中にいる人間という名の動物として、こんな見事な世界があることに身を震わせたのです。
見ると、マリーの目には涙が光っています。
彼女は、厳しい生活に耐え、今、愛するふるさとに立派な母親として帰って来たのです。
マリーの優しさや力強さは、この素晴らしいふるさとに育まれたのだと言えそうです。
谷間の家では、皆が勢揃いして待っていました。
私は大きな椰子の樹の下に立って、マリーとその父母の対面の様子をじっと見つめました。ひざまずくマリーの前で、両親が神に敬虔な祈りを捧げると、互いに抱擁を交わして喜びに浸っていました。
何と感動的な場面でしょう。
その後、マリーから何やら説明を受けたマリーのお父さんが、私に向かってこう言いました。
「マリーは私の一番大事な娘。その娘にとって大切な人は、私たちにとっても大切な人。
今日から山も川もそしてすべてのものが貴方を歓迎するでしょう。どうぞここを貴方の家だと思って、思う存分楽しんで下さい。」