ブラジル マンダカルー物語=黒木千阿子=(7)

 マリーの弟のウィルトンとネンネが、無事に山の麓に隠した乳母車と荷物を担いで戻ってきました。
 私はさっそく着替えを持って水浴びに行きました。
 さっきからせせらぎの音が私を呼んでいたのです。
 それにしても凄いではありませんか。自分の屋敷内に川が流れているなんて!!しかもその川の水は山の奥深くで湧き出た天然水なのです。
 その天然の水が見事な滝となって流れ落ち大きなプールを作り、その流れは下にある平たい大きな石の両側を二つに分かれてしぶきをあげているのです。
 ここは、マリーたち家族の専用浴場兼洗濯場で、時には涼をとる憩いの場でもあるのです。何という豊かさでしょうか。自然との共生とはまさにこんなことなのでしょう。
 水浴びを終えると昼近くでした。
 包丁を持ったウィルトンが鶏を追いかけまわして大声を上げていました。
 「どの鶏にするか、選んでください」
 見ると、泥を練って作ったかまどには薪がくべられて勢いよく燃えています。鍋のお湯がぐらぐらと煮えています。
 はて、どうやら私に鶏をご馳走するという算段か。と、マリーの声。
 「テレジーニャはお肉を食べないのよ!」
 こうして、鶏の捕り物劇は行われず、菜食主義者の私のお陰で、鶏も命拾いをしたというわけです。
 マリーのお母さんは私へのご馳走が出来ずに途方にくれていましたが、「テレジーニャはいつもカイオと一緒に離乳食を食べているから心配ないよ」と、言うマリーの言葉にちょっと安心したようでした。
 さあ、いよいよアルモッソ(昼食)です。離乳食をとっているカイオと私の側で、家族がタットゥー(アルマジロ)の肉を分け合って、楽しそうに食べていました。
 その有様を見ていた私は、昔、家にタットゥーの剥製を飾っていたのを思い出し、今家族が手にしているお肉を組み合わせれば、あの剥製は元の姿に戻るかもしれない、と変なことを考えながら、家族の胃袋におさまるタットゥーに心から冥福を祈りました。

 

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