ベネズエラ人PIX利用急拡大=国境都市で利用率550%

ビジネスでPIXを利用するベネズエラ人たち(6月29日付G1サイトの記事の一部)
ビジネスでPIXを利用するベネズエラ人たち(6月29日付G1サイトの記事の一部)

 ブラジル最北端ロライマ州パカライマ市では、ブラジル中銀が開発した即時決済システム「PIX」の月間平均利用者数が、同市人口の約5倍にあたる10万6千人超という異例の状況が発生。主にベネズエラと国境を接する同市を拠点に、居住や往来するベネズエラ人の利用拡大によるもので、ブラジル国内でも非常に高い水準だと6月29日付G1(1)が報じた。
 ブラジル北端のパカライマ市は、ベネズエラで約10年前から激化した経済危機と政治的不安を背景に、十数万人が大挙してブラジル移住する玄関口となった。連邦警察の統計によると、2024年1〜9月に8万3819人のベネズエラ人が同市を経由してブラジルに入国した一方、出国者はわずか8335人であり、これは1日平均329人の入国に相当する。
 PIXは無料で24時間365日利用可能、従来のDOCやTEDに代わる利便性の高い決済手段として急速に普及している。同市における月間取引回数は平均31回/人、取引額の平均は約119レであり、人口48万人超のリオ州ニテロイ市をしのぐ利用率を示す。
 調査を担当したジェトゥリオ・ヴァルガス財団(FGV)のラウロ・ゴンザレス氏は、同市のPIX利用の活発さについて、国境を越えて移動し買い物を行うベネズエラ人の往来の多さを主因に挙げている。多くのベネズエラ人がブラジルで正規の書類を取得しており、ベネズエラ側の国境都市サンタエレナ・ド・ウアイレンでも、一部の商店がPIX決済を受け入れていると指摘する。
 ベネズエラ人商人ダヴィ・ガルシアさんはベネズエラ在住だが、パカライマでの買い物や販売にPIXを用いる。彼は納税者番号(CPF)とブラジルの銀行口座を保有し、「PIXは迅速かつ安全で現金を持ち歩く必要がない。サンタエレナでもPIXの利用が広がりつつある」と話す。
 ベネズエラ人美容師ジョン・ペテルさんは「顧客からの支払いの7割がPIXによるもので、現金はほとんど見られなくなった」と語る。
 一方で、70歳のブラジル人経営者アントニア・フロリンダさんは「操作方法が分からず、詐欺が怖い。娘に管理を任せているが、皆がPIXで支払いたがるので困る」と懸念を示す。
 利用者の拡大にもかかわらず、通信インフラの不安定さがPIX利用の妨げとなっている。ロライマ州では、24年に17回の全域インターネット遮断が発生し、25年にも複数回の大規模停電が記録された。
 商人ロムロ・ソウザさんは「インターネットが途絶すると業務に遅延が生じ、行列や混乱を招くこともある。だが、PIX導入によって商取引が大幅に迅速化されたのは間違いない」と評価する。
 PIX普及率は地域の総人口に対して、当該地域でその月に少なくとも1回PIXを利用したユーザー数を基に算出される。24年の場合、カライマの月間平均利用者数は約10万6104人に達し、人口約1万9305人の同市における普及率は、全国平均の63%を大きく上回る550%という、国内でも突出した数値を記録した。
 サンパウロ総合大学の経済学者ローラ・パチェコ氏は、新型コロナウイルスのパンデミックによる金融サービスのデジタル化加速がPIX普及を後押したと説明。とりわけ北部・北東部地域では、都市部に比べて銀行の支店やATMなどの設備が少ないなど、従来の銀行サービスが十分に行き届いていないことが多く、PIXのようにスマートフォン一つでいつでも無料で使える簡単な決済方法の重要性が高いと分析。また、PIXは取引コスト削減や金融の透明化、経済の形式化促進にも寄与していると評価されている。(2)

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