ブラジル マンダカルー物語=黒木千阿子=(10)

 こういうわけですから、山の人たちは、私が持って行ったチョコボンボンに目を輝かせて、
 「こんな美味しい物、食べたことがない」
と言ったほどです。
 この山の人々は、収穫されたカカオがその後、どうなるかなど知らないし、知っていたとしてもどういうこともないのでしょう。しかし、何とも腑に落ちないこの世のしくみです。
 こんな山奥ですから、夜はランプ生活です。
 けれど、そのランプを灯す必要はほとんどありません。何故って、こうこうと降り注ぐ月光が十分なランプ代わりをしてくれるからです。
 早めのジャンタ(夕食)の後、私は戸口に立って暮れていく山々を見上げていました。
 オウムがギャーギャーと賑やかに家路に急いでいます。動物たちもそれぞれにねぐらに帰って行ったことでしょう。
 一日の仕事を終えて家路につく人々の回りには、無数の蛍が、
 「さようなら」
 「また、明日」
 「お休み」と、舞ながら道案内をしています。
 いつの間にか私の側にもやってきた蛍が、戯れながらポッポッと光の輪を揺らし、幼い頃の思い出を描いてくれています。
 目の前にそびえる黒い山脈にも黄色い線や輪が交差しています。チカチカとクリスマスツリーのようについたり消えたりしながら・・・・。
 星のシャンデリアと蛍の光が天空を背景に共演しているこの煌めきは、神様からの贈り物、山の人たちは何とぜいたくで、幸せなんだろうと羨ましくなりました。
 セリアの声がしました。「いつまでもそんな所に立っていないで、お休み前のカフェーを飲んで!」
私は、少し間を置いてから、「はーい」と中に入りましたが、本当はもともと大自然が繰り広げる舞踏会に胸をときめかせていたかったのです。
 翌日のこと。
 川にはおたまじゃくしやめだかが泳ぎ、林には蝉がなき、丘には赤とんぼが飛び交い、野には秋の花が咲き、色とりどりの蝶が舞う。
 日本の方には信じられないでしょうが、ここの山すべてが春も夏も秋も同じ季節の中で生きているのです。
 「山がお弁当!」
 そうセリアが言うように、ここはさながら果実の展覧会場です。

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