JICA協力隊員リレーエッセイ=ブラジル各地から日系社会を伝える(3)=ブラジルの子供たちに日本文化を伝える意味 サンパウロ市 春田かほる

学校行事「Festa de Família」での春田かほるさん(奥の着物姿)と校長夫妻(提供写真)

 この原稿を書き始めた10月10日は沖縄大空襲があった日でもあります。多くの方が犠牲者となった沖縄大空襲(1944年10月10日)から長い年月がたちました。
 私は、サンパウロ市東部にあるブラジリア学園に派遣されています。この学園は日系2世の方が自宅の個人授業から始め、昨年、創立50周年を迎えました。2歳から高校生まで、在籍生徒1300名という大きな学園です。
 設備が整い、遊具等も元技術者で日系の校長先生ならではのこだわりがみられ、子供達が怪我しないように角には緩衝材をつけられるなど徹底しています。見学に来て、その環境や方針に共感し、入園を決める保護者も多く、非日系の生徒も8割まで増えています。
 学園の近くには沖縄の方々のコミュニティがあり、子供達の名前からも沖縄出身とわかることがあります。
 私はこの学園で、日本文化を紹介しています。現在までに桃の節句、端午の節句、着物と浴衣の違い、風呂敷等を取り上げました。日本から持ってきたもの、県人会からお借りしたものを使い、本物を見てその意味や使い方を知り、楽しみながら学べるようにしています。
 また、インテグラウ(全日制)のクラスを選択している生徒と、週に3時間、独楽や紙鉄砲を作ったり、水彩絵の具を使って色づくりを楽しんだりしています。
 10月にFesta de Família(家族の日)という大きな行事がありました。今年は初代の校長先生の提案で七夕を紹介することになりました。写真は現在の校長先生ご夫妻と撮ったものです。七夕飾りの説明が写っているのが見えるでしょうか。七夕飾りには七つの願いがこめられています。その解説を読み、お子さんと一緒に作る飾りを選んだ保護者の方がたくさんいらっしゃいました。
 校長先生はお忙しい中、私の提案に向きあい、それが子供達のためになるかどうかを前提に考えてくださいます。先生方も協力的です。この学園は常に子供達を大切にして成り立っています。
 先日、風呂敷を紹介しました。子供達は初めて見る風呂敷の使い方を知り、便利なことに驚いていました。一人一人が風呂敷を使い、包み方、結び方等を学び、自分のものを包む体験をしました。最後に広げたまま風呂敷を返そうとする子供達に、日本では端と端をそろえ、たたんでから返すことを話しました。子供達は丁寧にたたみ、日本語で「ありがとう」と言って手渡してくれました。日本文化はこうした日常のことからも伝わっていきます。

ブラジリア学園の生徒(提供写真)

 ブラジルに生まれ、ブラジル人として生きていく子供達に日本文化の紹介が必要かどうか考えることがあります。遠く離れた日本を一生訪れることのない子供が大半だと思います。しかし、日本文化の授業は子供達が世界には様々な文化があり、自分が育った環境とは全く違う環境で生活している人がいることを考えるスタートになります。それは世界に目を向け、相手がどんな人であっても大切にする心を養うことにつながっていきます。はじめに書いた沖縄大空襲は事実として心にとめておいてほしいことです。
 そして、これからを担う子供達が異なった文化の中で生き、全く違う価値観をもった人達の存在を知ることは国際的な視野を持つうえで重要なことです。子供達がお互いを認め、平和な日々を大切にする人に育つことを心から願っています。

最新記事