ブラジルで日本語教師として活動している山川雄平です。任地であるマリリア市はJICA事務所のあるサンパウロ市から北西へ車で約6時間のところに位置する地方中核都市です。配属先である日系マリリア文化体育協会は日本語学校の運営や、柔道、野球、ソフトボールなどのクラブを擁し、イベント等での日本文化紹介や、スポーツを通じた青少年育成活動などを中心に活発に活動を行い、地域社会に貢献しています。
現在、ブラジルではアニメや漫画をはじめとした日本のサブカルチャーが人気で、非日系の子供や大人の日本語学習者も増えてきています。一緒に活動している現地の先生は漫画クラスを設けて、子供たちに漫画の描き方と日本語を教える取り組みをしています。
この取り組みを発展させていくために、同校では漫画製作を指導できる「美術(マンガ)隊員」も募集しています。また、毎年7月には学校が主催となってコスプレ大会や屋台、折り紙などのワークショップをはじめとした様々な出し物をする「カッパ会」というイベントを行っています。日本の文化祭のように生徒たちが中心となって考えて、マリリア市の地域の人々も参加できるイベントです。
日本とは違う食事、文化、景色、言葉・・・、27歳という歳になって出会うたくさんの「初めて」に翻弄されながらも、様々な違いを楽しんで活動しています。新天地での生活に、これまで日本で身に付けた当たり前や常識が、ただの思い込みや、数あるものの見方の一つだったに過ぎないことを改めて思い知らされています。そんな違いについて少し話したいと思います。
「おもてなし」は日本の文化を表す言葉としてよく用いられています。オリンピック招致のキーワードにもなった日本のおもてなしとは、客人、ないしは「外の人」に対して向けられることが多いと感じます。相手のために何かをしてあげる、「与えるホスピタリティ」という印象があります。私自身、相手をもてなす心を大切にしている一方で、ブラジルの人々からも「おもてなし」に似た感覚を感じることが多々あります。
ブラジルのそれは日本と比べて、「相手を受け入れ、思いやる気持ち」という印象を持ちます。例えば、友人の家に初めて遊びに行ったとき、「眠くなったらこのベッド使ってね」と言われ、返事に困ったことがあります。また、別の友人から突然「何している?」とメッセージが届き、仕事だと伝えると、帰宅後に家に食事を作って持ってきてくれたこともありました。
どちらも私は「ありがとう。申し訳ない」と伝えたのですが、「何が申し訳ないの?」と言われてしまいました。ここではまるで家族に向けられる愛のように、相手を思いやることが当たり前なのだと感じました。
言い換えれば、相手との距離が日本に比べとても近いのです。こういったことがあると私は少なからず「申し訳ない」という気持ちになります。日本で育った私にとって、こうした行為は家族や恋人同士などとても親しい間柄でのみ行うコミュニケーションだからです。
日本のおもてなし文化はとても魅力的で世界に誇るものですが、ブラジルに来てからは、どこか寂しさを感じるようになりました。ウチソト文化の日本で「もてなされる」ということは、程度の差はあれど、いつまでも見えない距離の外側にいるように感じたからです。
「人種のるつぼ」と言われるほど様々なルーツを持つ人が共存しているブラジル。そんな国だからこそ生まれたブラジル流の「受け入れるおもてなし」を、今後は私も実践していきたいと思います。