オピニオン=レオ14世とドナ・マルガリーダの聖なる人生=奥原マリオ純

ドナ・マルガリーダ渡辺と入園者(『救済会の37年』の表紙より)

 新しく選ばれたローマ教皇、レオ14世が、世界各国の外交官たちに向けた初めてのスピーチで、移民の尊厳を守ることの大切さを訴えました。思いやりと連帯を持って接するようにと呼びかけたのです。南米での経験や、世界を巡って出会ったさまざまな人々と文化が、国境を超える視点を育んでくれたとも語っていました。
このレオ14世の選出は、貧しい人々や移民、そして一般信徒へのまなざしを重んじてきたフランシスコ前教皇の方針を引き継ぐものと見られています。
 そんな中、カトリック信者の多い日系ブラジル人のコミュニティでは、今回の教皇選出に大きな期待が寄せられています。特に注目されているのは、ブラジルに渡って日本人移民とその子孫のために尽くした中村ドミンゴス長八(チョウハチ)神父の列福(れっぷく)運動が、これを機にさらに進むのではないかという希望です。
 中村神父は1923年、58歳でブラジルに到着し、1940年にアルヴァレス・マシャードの地で亡くなりました。彼の列福のための手続きは2009年からバチカンで進められています。
 ちなみに、同じく注目されているのが、ブラジル北東部で「パードレ・シセロ」として親しまれた神父の列福プロセスで、こちらは2022年に始まりました。
 近年、列福や聖人認定のプロセスは、司祭や修道者だけでなく、一般の信徒にも門戸が開かれるようになってきました。そのきっかけは1983年、ヨハネ・パウロ2世が発表した文書「Divinus Perfectionis Magister(神なる完全の師)」にあります。そして、それをさらに広げたのがフランシスコ教皇でした。信仰を日常の中で静かに実践する「名もなき信徒」の証しが、教会にとっていかに尊いかを、彼は繰り返し語ってきたのです。
 そんななか、2014年には「ブラジル日本人移民の母」と呼ばれる渡辺マルガリーダさんの列福を望む声が上がりました。法学者のイーヴェス・ガンドラ・マルチンス氏や、サンパウロ大司教のオディロ・シェレール枢機卿、そして列福推進の専門家シスター・セリア・カドリンらが、その功績を認めています。
 ドナ・マルガリーダの人生は、まさに慈愛と忍耐、そして信仰に満ちたものでした。とくに有名なのは、1943年、戦時中の政令により、サントス市から6500人もの日本人とその子孫が追放された事件のときのこと。彼女はカトリック婦人会の一員として、収容施設に入れられた家族たちに食料や衣類を届け続けました。その施設は、実質的には〝移民用の強制収容所〟のような場所になっていたのです。
 戦後は、結核患者や孤児、高齢者たちの世話をしながら、地域に寄り添って生き続けました。まさに「隣人を愛する」ことにその人生を捧げた女性でした。
 これからレオ14世が、フランシスコ前教皇の方針を引き継いで一般信徒の役割を重んじるなら、渡辺マルガリーダさんの列福にも、いっそう期待が高まることでしょう。もしかすると、彼女は「ブラジル初の日本人の聖人」になる日が来るかもしれません。

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