
「次に刺されるのは自分かも」――連邦医師審議会(CFM)の統計によると、過去10年間で医師への暴力が68%増加し、24年には1日あたり12件発生したことが明らかになった。看護師の8割が職場で暴力を経験しており、命を救う最前線に立つ医療従事者が、自らの安全を脅かされるという異常事態が拡大していると13日付G1(1)が報じた。
暴力の多くは救急外来や一次医療施設で発生しており、24年には全国で4562件の被害届が提出された。サンパウロ州が最多で832件、次いでパラナ州767件、ミナス・ジェライス州460件と続く。被害者の約半数は女性だ。
看護師や医師らによれば、暴力は日常的に発生しており、言葉による威圧にとどまらず、物理的な暴行に至るケースも少なくない。サンパウロ市の病院で勤務していた看護助手の女性は、患者の付き添いから顔や腕を殴打される暴行を受け、現在はパニック障害と診断されて休職中だという。心理的ショックは極めて深刻で、全ての髪が抜け落ちる症状を伴った。命の危険を感じる現場に不安を募らせた被害者の夫は、「いつか君の遺体を職場に迎えに行くことになるかもしれない」と声を震わせたという。
サンパウロ市の小児救急に勤務する医師の場合、患者の父親に腕を叩かれたうえに執拗に追いかけられ、やむなく部屋に逃げ込んで身を隠す事態も起きている。医師は「恐怖は現実だ。次に刺されるのは自分かもしれないという不安を抱えながら働いている」と語った。
同様の被害は地方でも報告されている。エスピリトサント州で小児救急に従事する女医は、激昂した母親から顔を殴打されたが、病院の警備員は「施設の財産保護が我々の任務で、暴力事案への介入権限はない」と対応しなかった。暴力対応は市警備隊(GCM)や警察の管轄とされており、CFMは医療施設に公的な警備体制が欠如している現状を問題視している。
一部の医師や看護師は被害届を提出しているものの、報復や訴訟の負担を懸念し、多くが届け出を見送っているのが実情だという。調査では、通報されていない暴力も多く、実際の件数はさらに多いようだ。
医療現場における暴力の背景には、慢性的な人手不足や設備の不備など、医療体制そのものの構造的問題がある。診療の遅れや医薬品の不足に患者側の不満が集中し、矛先が現場の医療従事者に向かう構図が繰り返されている。
CFM理事のエステヴァン・リヴェロ医師は、医療従事者がシステムの構造的欠陥の責任を押し付けられていると指摘。「薬剤の欠如や検査予約の不備など、管理上の失敗を医療従事者が一身に負わされている」と指摘。暴力を受けた医療従事者が離職や休職に追い込まれることで、医療提供体制がさらに弱体化する悪循環にも警鐘を鳴らした。
SNSによる暴露や動画拡散も緊張の一因となっている。軽微なトラブルが誤解され、医療従事者が過剰に非難されるケースが増加している。
事態を受け、CFMは現在、勤務中の医師への暴行を重罰化する法案(PL6749/16)を支持しており、25年5月には同法案が下院を通過。現在は上院で審議中だ。医療従事者に対する犯罪を扱う専門警察の設置や、医療機関に対し暴行発生時の警察通報を義務づける新たな規定の整備も進めているという。