
世界遺産イースター島の象徴モアイ像が深刻な劣化に直面している。特に海岸沿いの像は、海面上昇や嵐による浸食にさらされ、消滅の危機にある。干ばつや森林火災も深刻で、22年の火災では80体以上の像が損傷した。先祖の記憶を刻む文化遺産の行方を巡り、地元住民と専門家の間で模索が続いていると14日付BBCブラジル(1)が報じた。
南米チリ本土から約3500キロの太平洋上に位置する孤島イースター島は、現地語で「広大な土地」を意味するラパ・ヌイの名でも知られ、約1千体に及ぶ巨大な石像モアイで世界的に名高い。多くの像は地中に半ば埋もれており、平均で高さ4メートル、重量10トンにも達する。
これらは11〜17世紀、祖先や首長の霊を象徴し、その霊力を宿す目的で造られたとされる。中でも約200体は、海岸沿いの石製祭壇「アフ」に整然と並べられており、島の景観と文化を象徴する存在となっている。
一見すると堅固に見えるモアイ像だが、その多くは火山灰が堆積して生成された凝灰岩から作られており、風雨や塩分に非常に脆い。表面には剥離やひび割れ、空洞化が広がっており、一部は粉状に崩壊しつつある。塩分が石材内部で結晶化し膨張することで、内側からの破壊も進行しているという。
近年は気候変動の影響による降雨パターンの変化や干ばつの頻発が劣化を加速させており、ユネスコは16年の報告書で、同島を「気候変動の影響を最も強く受けている世界遺産」の一つに挙げた。さらに、森林減少により淡水の保水力が低下し、火災リスクも増大している。
22年10月、死火山の火口に位置する採石場「ラノ・ララク」周辺で大規模火災が発生。火元は地下にあり、約80体のモアイ像が被災し、表面の焦げやひび割れといった損傷が確認され、国立公園当局は「修復不可能な損傷」と評した。専門家は像の内部まで達した損傷により、今後の降雨で崩落する恐れがあると警鐘を鳴らしている。(2)
こうした状況を受け、モアイ像の管理を担う先住民組織「マウ・ヘヌア」は25年、火災で最も損傷した5体の修復作業に着手。伊フィレンツェ大学の石材修復専門家と連携し、焼損による黒い煤の除去、耐水処理、地衣類の除去、構造強化のための化学溶剤の適用を進めている。ドローンとレーザースキャンを活用した3Dモデリングにより、像ごとの劣化状況を精密に記録・監視する取り組みも行われている。
だが、修復のための薬品は高価で、輸入関税も高いため、資金面の制約は依然として大きい。像ごとに異なる文化的・宗教的背景を持つため、保全には個別の許可が必要となる場合も多い。将来的には修復手法の標準化や、先住民と連携したプロトコルの策定が急務となっている。
モアイ像の保存を巡っては意見が割れる。英ロンドンの大英博物館に所蔵されているモアイ像「ホア・ハカナナイア」のように、外部環境から隔離された保存方法を支持する声がある一方、先住民の間では「像は土へと還る運命にある」との見方も根強い。
だが、島内の観光産業はモアイ像に依存しており、年間10万人を超える観光客を受け入れていることを踏まえれば、文化遺産としての保存の必要性は切実だ。
マウ・ヘヌア代表のテパノ・マルティン氏は「モアイの保全は、単なる石像の保存ではない。我々ラパ・ヌイの人々がこの島で生き続けるための文化の継承だ」と語っている。