過酷で薄利なバイク労働者=1キロ走って報酬1レアル

モトボーイ(Foto: Fernando Frazão/Agência Brasil)
モトボーイ(Foto: Fernando Frazão/Agência Brasil)

 「100レアル(約2500円)を稼ぐのに10時間もバイクを走らせなきゃいけない」――ブラジルでは、バイクを使って生計を立てる労働者たちの過酷な現実が浮き彫りになっている。国内で3400万台を超えるバイクは、乗用車の約10倍という圧倒的な台数を誇り、その半数以上が労働用に使用されているという。配達員(モトボーイ)やモトタクシーなどの職業従事者たちは、長時間の労働に耐えつつ日々の生活を支えている5日付G1(1)が報じた。
 モトボーイのアレシャンデル・グチエレスさんは、1日に平均150キロメートルを走り、約12時間もの長時間をバイクに乗って過ごす。「キロあたり1レの報酬で、ガソリン代やメンテナンス費、食費を差し引くと、手元に残るのは1日約80レだ」と明かす。弟もモトボーイとして働いていたが、重い事故に遭遇。「弟の事故以来、命の大切さを切に感じるようになった。自分だけでなく、乗せている人の命も守らなければならない」と語る。
 長時間勤務と薄利、危険と隣り合わせの状況が彼らの共通した課題だ。別のモトボーイも「これが俺たちの生計手段。事故に遭えば終わりで、仕事もできなくなる」と現状を吐露した。
 サンパウロ州には約65万人のバイク従事者がおり、約32万人がサンパウロ市に集中している。南米最大の都市圏を支える存在として、同州議会(Alesp)は2016年、「モトボーイの日」を制定し、その貢献を称えた。
 彼らは都市の物流とサービスを担う一方で、過酷な労働環境に置かれている。地理統計院(IBGE)の23年調査では、モトボーイの週平均労働時間は46時間と、他職種の39・5時間を大きく上回る。報酬も労働時間に見合わず、慢性的な低賃金が問題となっている。
 コロナ禍以降、デリバリーアプリを介した業務が急増し、サンパウロ市では配達員が約40%増加。アプリでは雇用契約がなく、労災や社会保障もない「個人事業主」として扱われるケースが大半だ。これに対し、労働団体はプラットフォーム企業の法令違反を強く批判している。
 Alespでは、モトボーイの安全確保や権利保護をめぐる議論が活発に行われている。議会では「モトボーイの利益を守る議員連盟」など複数のグループが設置され、安全対策や契約責任、配達の質、公的支援の在り方が議題となっている。23年に発足したモトボーイ擁護連盟は、アプリを介した新たな働き方への法整備の必要性を訴え、労働時間や休暇、報酬体系の見直しを求めている。
 一方で、こうした柔軟な働き方に魅力を感じてこの職に就く若者も少なくない。女性配達員アナ・コルネルさんは「自分のペースで働けるから休みも自由」と語る。だが「アプリ配達員は何の保証もない。正社員だったら、拠点もあって安心して働けるのに」と法的保護のなさに対する不安も口にした。
 30年以上の経験を持つ配達員のジョゼ・ジアス・サントスさんは、この仕事に対する偏見と評価の低さを問題視する。「配達が遅れたら評価が下がる。若い子は評価を恐れて無理な運転をしてしまうが、自分は命を優先する」と語る。「車の隣に停まると窓を閉められることがあるし、レストランに入れてもらえないこともある」と日常的な差別の存在も明かした。そのうえで「モトボーイがいなければ街は動かない。もっと尊重されるべき存在なんだ」と強く訴えている。(2)

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