
ブラジルでは近年、車両の防弾化が進展している。なかでも、電気自動車(EV)を対象とした防弾加工への関心が高まりつつある。EVの所有者は比較的高所得層が多く、治安への不安から安全性を重視する傾向があるからだ。都市部では高価格帯のEVが犯罪の標的となる例もあり、防弾化の需要を押し上げていると、23日付エスタード紙(1)が報じた。
ブラジル防弾協会(Abrablin)の調査によれば、2024年に防弾加工件数が多かった車両メーカーとして、トヨタ、ジープ、BMW、フォルクスワーゲンに続き、中国のEV専業メーカー・BYDが第5位にランクインした。上位4社はいずれも内燃機関車やハイブリッド車を主力とする中、EVに特化したBYDの躍進は、防弾市場におけるEVの存在感が高まっていることを示している。
EVの防弾化には、内燃機関車とは異なる技術的配慮が求められる。高電圧システムを有するため、作業前にはNR―10といった安全基準に基づき、電気系統の遮断を徹底する必要がある。
加えて電子部品への影響を避けるため、金属粒子などの浮遊を防ぐ作業環境の管理も重要となる。多数のセンサーや電子モジュールを搭載するEVでは、再プログラミング作業にも高度な専門性が要求されるという。
防弾需要の拡大は、EVに限らず車両全般に及び、新車にとどまらず中古車市場にも波及している。30日付CBN(2)によると、1〜3月の中古車の防弾加工件数は前年同期比で30%増加した。高額な新車の防弾仕様に手が届かない層が、安全性を確保しつつコストを抑える手段として中古車の防弾化を選ぶケースが増えているからだ。
実際、広告プラットフォーム「Webmotors」の調査によれば、1〜4月に防弾済み中古車の検索件数は15%増加し、新車の防弾車両に対する検索を上回る伸びを示した。サンパウロ州沿岸部に住む企業幹部ラリッサ・デニスさんは、犯罪が多発するサンパウロ市中央部での移動の安全確保を理由に中古の防弾車を購入。「新車は手が届かないが、安全性は譲れない」と話す。
防弾専門業者によれば、かつては全体の1割程度に過ぎなかった中古車の防弾加工が、現在では全体の1/4を占めるまでに増加。背景には「中古車でも適切に施工すれば新車と同等の性能が得られる」との認識の広がりがある。施工費用は平均で約8万レ(約215万円)だ。
Abrablinのマルセロ・シルヴァ会長は、90年代以降、防弾車の購入層が富裕層から中間層へと広がってきたと指摘。「以前は防弾車を買っても中古では売れなかったが、いまは市場が形成され、中古車でも売れるという確信が購入の後押しになっている」と話す。
同協会によると、1〜5月中旬までの約5カ月半で、防弾加工を受けた車両は1万3200台を超えた。これは、前年の上半期に施工された台数とほぼ同じ数値であり、短期間で前年並みの需要があることを示している。