29日のブラジル株式市場は方向感を欠く展開が続き、主要株価指数のボベスパ(Ibovespa)は前日比0.25%安の13万8,533.70で取引を終えた。米国とブラジル双方で経済指標の発表が相次ぎ、加えて米国の関税政策やブラジルの金融取引税(IOF)に関する混乱が投資家心理を左右した。
この日のボベスパは終日、値動きの乏しい展開となり、方向性を欠いた。鉄鉱石価格の上昇を受けてヴァーレ(VALE3)はわずかに上昇したものの、国際原油価格の下落によりペトロブラス(PETR4)は下落するなど、セクター間で明暗が分かれた。
為替市場では、商業ドルが対レアルで0.50%下落し、1ドル=5.666レアルとなった。前日の上昇を打ち消す形で、米金利や政治リスクを巡る不透明感が引き続き影響した。債券市場では、将来の政策金利を示すDI金利がまちまちの動きとなった。
米国市場は関税緩和に反応 ただし終盤に不透明感再燃
米半導体大手エヌビディア(Nvidia)の2025年第1四半期決算が市場予想を上回る好結果となり、米国株式市場では取引開始直後こそ上昇が目立った。しかしその後、米司法当局がトランプ前政権時代に導入された対中関税措置の一部を一時的に無効とした判決が出たことを受けて、市場の楽観ムードに水が差された。
米シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁は、「司法判断により不確実性が一段と高まった」と指摘。Annex Wealth Managementのチーフエコノミスト、ブライアン・ジェイコブセン氏は、「今回の判決は単なる技術的な問題ではない。市場にとっては好材料であるものの、上訴や対抗措置による不透明さが続く」と述べた。
実際、ニューヨーク株式市場では、主要3指数が一時上昇したものの、終盤にかけて上げ幅を縮小し、最終的には小幅高にとどまった。欧州市場は一転して下落。米国のGDP速報値がマイナス成長に修正されるなど、経済の減速懸念が広がったことが背景にある。
加えて、4月~6月期の個人消費支出(PCE)インフレ率が加速したことも、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ観測を遠のかせる一因となった。なお、先に出された関税無効の判決は、取引終了間際に上級審が一時差し止めを決定し、当面は関税措置が維持されることとなった。
市場では、「グラスに水が半分入っているのか、それとも半分しかないのか」といった心理状態が広がり、楽観と悲観が交錯する一日となった。
ブラジルではIOF巡る攻防 政界・財界に動揺広がる
国内では、政府が発表したIOF(金融取引税)の増税を巡り、政界や市場関係者からの反発が強まっている。
与党・労働者党(PT)に批判的な立場を取る著名投資家ルイス・ストゥールベルゲル氏(Fundo VerdeのCEO)は、サンパウロで開かれたイベントにおいて「政府の人気低下が早くも選挙モードを引き起こしている」と警鐘を鳴らした。同氏は、「支持率が低下した政権が、財政悪化を顧みずにポピュリズム政策を取り始める傾向は、今後さらに強まるだろう」との見方を示した。
特に問題視されているのは、IOF税率の引き上げによって、資本移動への「心理的な壁」が形成されることだ。「これは市場に対するPTの本音を示した無料の心理学講義だった」とし、「ドルを買いたければ通行料を払えという態度だ」と批判した。
ストゥールベルゲル氏はまた、所得税の免除枠拡大や社会給付の拡充、州債務の再交渉、地方自治体年金制度の改革など、財政への圧力が一層強まる政策が相次いでいると指摘。これらの動きは、中長期的に国の財政健全性をさらに損なう恐れがある。
ハダジ財務相、「苦悩」と語るも続投に意欲 ルーラ大統領が擁護
こうした中、ハダジ財務相は29日、パラナ州のイベントで「批判は多いが、ルーラ政権に仕えることは常に意義深い」と述べ、自らの立場を擁護した。IOF増税に対する批判が高まる中での発言であり、「いくら苦しんでも、今日のような日はその苦しみを癒やしてくれる」と語った。
同席したルーラ大統領も「ハダジ財務相は極めて有能であり、多くの成果をもたらしている」と述べ、同氏を擁護した。
一方、連邦議会では増税措置の撤回を求める動きが活発化。下院議長のウーゴ・モッタ氏は、「IOF増税の大統領令は撤回される見通し」と発言し、政府に対して10日以内に代替案を示すよう求めた。ハダジ氏は前日、モッタ氏およびアルコルンブレ上院議長と会談し、「代替財源がないまま撤回すれば政府機能が停止する恐れがある」と警告した。
政府は、2025年の歳入補填としてIOF増税による2,050億レアルの増収を見込んでおり、2026年までは代替案の提示が難しいとの立場を示している。為替送金に対する課税はすでに一部撤回されたが、それでも市場や与党内部からの反発は収まっていない。
市場では不透明感強まる 重要経済指標に注目集まる
30日には、米国でFRBが最も重視するインフレ指標である4月のPCE価格指数が発表される。ブラジルでは同日、第1四半期のGDP(国内総生産)が公表予定であり、景気の先行きを占う重要な手掛かりとなる。
この日のボベスパ市場では、銀行株が軟調。ブラジル銀行(BBAS3)は1.58%下落し、5月だけで18%超の下げ幅となった。サンタンデール(SANB11)は0.30%、ブラデスコ(BBDC4)は0.43%の下落だった。
航空関連ではアズール(AZUL4)が6.80%安と大きく売られ、年初来の下落率は70%を超えた。XP投資が投資判断の見直しを表明したことが背景だ。一方、ゴル(GOLL4)は1.56%高となったが、持続性には懐疑的な見方も多い。
証券取引所運営のB3(B3SA3)も1.40%安、対照的にコペル(CPLE6)は1.51%高となった。全体としては、上下まちまちの展開で、投資家の間には「改善するかもしれないが、さらに悪化するかもしれない」といった不安感が広がっている。
確かなのは、不確実性が市場を支配しているという事実だけだ。