
「30年前からブラジルに来たかった。ゴールデンウィークを利用して、ようやくブラジルのラジオ体操仲間と交流に来ました」と溌剌した様子で体を動かすのは、兵庫県宝塚市在住の河内正治さん(58歳)だ。電器メーカー勤務のエンジニアで、わざわざ休みをとってブラジルまでやってきた。
4月27日夕方に着聖し、翌28日(月)朝6時過ぎにはサンパウロ市アクリマソン公園で一緒にラジオ体操を行ってきた。「アクリマソン公園は都会の中の緑のオアシス。茜色の朝明けの中、たくさんの人がジョギングなどで汗を流している。そのような清々しい空気の中でラジオ体操を行い、気持ちよく体が動かせました」と振り返る。
取材した29日(火)朝6時過ぎはリベルダーデ広場。1級ラジオ体操指導士の資格を持つ河内さんは、さっそく前に出て模範を見せながら、一緒に汗を流した。
一緒に体を動かしたリベルダーデラジオ体操会の約30人を前に、「ここはブラジルのラジオ体操発祥の地。ブラジルで頑張ってきた日系人の皆さんと交流できるのを楽しみにしてきました」と挨拶した。
聞けば、ラジオ体操を始めたのは3年前。普段は自宅や職場で体操を行い、週末には地域のラジオ体操会の仲間と一緒に体を動かす。長期休暇では旅行先でラジオ体操会を探して参加している。「ラジオ体操仲間はすぐに打ち解け、各地の貴重な情報を教えてもらえる。どこの町にも大体あるので、このネットワークは凄いんですよ」と頷く。
加えて、毎週3回日本時間夜にオンラインでブラジル体操会のメンバーら約40人と体操をしており、その仲間を頼って今回やってきた。

リベルダーデ体操会代表の鹿又信一さん(東京都、90歳)は「この後は歓迎会をサクラ食堂でやるんだ。この前、読売新聞に出た僕の記事を持ってきてくれた。本当にありがたい」と喜んだ。同体操会古株の宮本ミリアンさんも「わざわざ日本から交流に来てくれた嬉しい」と笑顔を浮かべた。
河内さんはその後に弓場農場に寄り、2泊3日の滞在中に農作業の他、ラジオ体操教室、子供向けと一般向けの科学のワークショップを行い、10日に日本に帰国した。
その後、河内さんとメールのやり取りをする中で、河内さんは弓場農場に居た時に兵庫県尼崎市のコミュニティFM「みんなのあま咲き放送局」にメッセージを送り、それが生放送のラジオ番組の中で読まれていたことが分かった。
その番組のアーカイブを聞いたところ、実は河内さんは3月中旬に30年近く寄り添った、52歳の最愛の奥さんを病気で亡くしたばかりだった。その辛い思いを振り切るように「前を向かないと」という気持ちで、地球の反対側まで来ていたことが綴られていた。
皆の前で元気溌剌とラジオ体操の模範演技を見せていた河内さんだが、実は内心には辛さ、寂しさを抱えていたようだ。ラジオの女性アナウンサーは「きっとブラジルの皆さんの温かさに癒されていることでしょうね」とコメントしていた。