
ウルグアイの元大統領、ホセ・“ペペ”・ムヒカ氏が5月13日、モンテビデオ市内で死去した。89歳だった。2024年に公表した食道がんが肝臓へ転移し、治療が困難となったことを今年1月に明らかにしていた。近年は放射線治療の副作用にも苦しんでいた。
訃報は、同国の現職大統領であり、ムヒカ氏の政治的後継者でもあるヤマンドゥ・オルシ氏が発表。「同志であり、指導者であり、友人だった。あなたが遺したものに深く感謝している」と追悼の言葉を述べた。
ムヒカ氏は2010年から2015年にかけてウルグアイ大統領を務めた。在任中もモンテビデオ郊外の農園に暮らし続け、月収の大半を寄付。1978年製のビートルを自ら運転し、質素な生活を貫いたことから「世界で最も貧しい大統領」として国内外で親しまれた。
一方で、政権運営は大胆だった。大麻の個人使用や中絶の合法化、同性婚の法制化など、南米でも進歩的とされる政策を相次いで実現。貧困率は在任前の約37%から11%へと大幅に改善され、最低賃金も大きく引き上げられた。
ムヒカ氏は1935年、ウルグアイで生まれ、6歳で父を亡くした。若年期は花の栽培と販売で家計を支え、後に左派ゲリラ「トゥパマロス」に参加。軍政下での弾圧を受け、約14年間にわたり収監されたが、1985年の民主化後に釈放され、政界に復帰した。
1994年に下院議員、1999年に上院議員を経て、2005年に農業大臣を務めた後、2010年に大統領に就任した。政界引退後も、政治や社会について率直な発言を続けた。
晩年、ムヒカ氏は「ここで死ぬ。裏庭の大きなセコイアのそばに、愛犬マヌエラが眠っている。自分もそのそばに眠りたい」と語っていたと報じられている。自由と尊厳を重んじた生涯は、多くの人々の記憶に残り続けるだろう。