JICA協力隊員リレーエッセイ=ブラジル各地から日系社会を伝える(15)=異なる文化や価値観が共存する世界へ=サンパウロ州サンジョゼ・ドス・カンポス市 布目杏奈

職場の皆さんと。布目隊員は一番左

 サンパウロ州サンジョゼ・ドス・カンポス市にあるエコス学園で、小学校教育隊員として活動している布目杏奈(ぬのめあんな)です。同市は人口約70万人で、多国籍企業が集まる工業と研究の都市であることが広く知られています。
 日本人の同市への移民は今から約100年前の1922年に始まり、多数の日本企業が進出しました。1956年に設立された鐘紡ブラジル(株)(当時)では多くの日系人の方々が勤務され、会社内には従業員の方々の子どもが通う小さな学校がありました。
 そこで教員をされていた日系2世の方が、1979年に鐘紡工場近くに保育園を開園しました。エコス学園は、そのご家族によって2008年に保育部、2011年に小中学部、2014年に幼稚部が設立されました。
 現在では、保育部から中学部まで約300人の児童生徒が在籍し、ユネスコスクール加盟校となり、持続可能な社会づくりの担い手を育む様々な教育活動を行っています。例えば、小学部では環境問題である廃棄物処理に関する取組みを行ったり、中学部では学生が各国の大使になり実際の国連の会議を模擬する模擬国連を行ったりと、現代社会における地球規模の課題を主体的に捉え、その解決に向け自ら考え行動できる人材の育成に力を入れています。
 また、国際都市にある当学園はグローバル人材の育成にも重点を置いており、ポルトガル語と英語のバイリンガル校でもあります。学園全体の日系人の割合は15%程ですが、学園は日本文化に関する教育活動を通して、児童生徒の異文化理解が深まり多様性を尊重する態度を育みたいという思いがあり、JICAボランティアを継続して受け入れています。
 私は、課外活動としての日本文化紹介や日本語コースの授業を行い、また日本の教育活動を取り入れた学校行事やプロジェクトの企画と実施をしています。現在進行中であるプロジェクト「KAKARI活動」についてお話しします。
 当学園では約10年間KAKARI活動が継続して行われています。学園は「園内の物や場所を大切に使うという責任感」や「次に使う人のことを思いやる心」を児童生徒に身につけさせたい思いがあり、日頃から彼らが授業後に教室内の掃除や整頓をしたり、軽食や給食の後片付けをしたりする姿が見られます。2月に行われたカーニバルのイベントでは多くの紙吹雪が使われましたが、イベント後に児童生徒が友達と協力しながら積極的に掃除する姿に、心を打たれました。

カーニバルイベントで児童らがKAKARI活動をする様子

 日本では子どもが学校内外で掃除や片付けをすることは一般的ですが、ブラジルでは異なり、校内の掃除は清掃員が、家ではファシネイラと呼ばれるハウスキーパーが家事全般をする家庭が多いです。このブラジル文化は、プロジェクトを進めていく上で大きなポイントであると私は感じています。なぜなら、KAKARI活動を良く思わない大人の方や、積極的でない児童生徒が実際にいるからです。
 先日学園の先生方に、日本の学校は清掃活動以外に係活動や当番活動、委員会活動があることを紹介し、これらの活動は学校生活をより豊かにし児童生徒の自主性や責任感、協調性を育む目的もあることを伝えました。現在は、日本の教育活動をそのまま導入するのではなく、学園の実態やブラジル文化に合った形で取り入れ、更に良い学園となるよう先生方とプロジェクトを進めているところです。
 私たちは、児童生徒が異文化理解を通して学び身につけることは人として大切なことであり、より良い学園、国、更には世界をつくるために必要なことであると考えています。子どもたちが、異なる文化や価値観を持つ人々が共存する世界で活躍できる人となれるよう、今後も日本の教育活動や文化を伝えていき、学園に取り入れられ継続されるよう、エコス学園の皆さんと共に活動していきます。

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