連載小説=自分史「たんぽぽ」=黒木 慧=第148話

 女の人が男より長生きするのは、酒をあまり飲まず、生活習慣に気をつけるからだ。男だって、酒は適量にして生活習慣病にならないように気をつけたら、一〇〇歳まで生きるのも夢ではないと思う。
 (十一) 子・孫・その後の世代に望むこと……私は日本で二十年、ブラジルで六十年近く生きて来た。日本での生活の三倍をブラジルで生きて来たことになる。だけど今でも話す言葉は殆んど日本語であり、食べ物も日本食が主体である。これは、二十歳までの成長期に育まれた日本での教育や社会環境の影響がどれ程大きいかを意味するものであり、又、ブラジルでの六十年間も常に日系社会の中で暮して来た。もし、この六十年間をブラジル人の中で暮して来たら、又、大分変った今の自分があったのかも知れない。それで幸せであったのかも知れない。幸か不幸かは別として、私達夫婦は残り少ない余生を、今の日系中心のつき合いの中で過ごすことになるだろう。これで良いのだ。
 さて、私の子孫達よ、今私達夫婦には四人の子供とそれぞれの夫や妻・そして十人の孫と一人の曾孫の合計十九人の子孫がいる。その中四人が日本で暮し、十五人がブラジルで暮している。今後、この子孫の世代が進むにつれて、その生活範囲も世界中に散らばるようになるかも知れない。でも、やはりその多くが暮すところはブラジルだと思う。そして異人種間の結婚も多くなり、私達の日本人の血も段々と薄くなっていくだろう。私達は日本人としての誇り(オルグーリョ)を持っているけど、ブラジル生まれの子孫はブラジル人としての誇りを持つことになる。これで良いのだ。
 私の生れた日本と言う国は、春夏秋冬の四季がはっきりしていて、きれいで、住む人も礼儀正しく、犯罪の少ないすばらしい国である。だけど地震が多く、火災が多く、津波があり、毎年台風におそわれ、実に災害の多い国である。そして近隣諸国とのつき合いに悩まされている。でも日本人は、何百年、何千年の昔からこの様な苦難に負けずに生きて来た。いつも苦難と向き合っているので、それに打ち勝つ力を培って来た。そして日本は発展して来た。日本は資源に乏しい国である。日本人がこれ以上の生活の質を望めば、どうしても海外から資源(マテリアル)を輸入せねばならない。それには、日本は外国と仲良くせねばならない。そして高い技術力で質の良い物を造って外国に売って喜ばれ、又平和的な考え方で、他の国の人達を指導せねばならない。

最新記事