連載小説=自分史「たんぽぽ」=黒木 慧=まえがき

まえがき

 「たんぽぽの花の小さな種子は風に吹かれて遠くに行って、そこに又、きれいな花を咲かせるよ。お前も遠いブラジルに行って、そこで頑張って、立派な家族を育てなさい」
 これは、私の妻美佐子が、ブラジルに居る私のもとに嫁いで来る時に、その母政子から贈られた言葉だそうである。別れのつらさを胸にこらえ乍らも、愛する我が娘に贈ったすばらしい名言である。
 何十世代にわたって、私達の先祖は、日本という国で暮してきた。それがある時、私の決断に依って、ブラジルに生活の場を移したのである。そしてたんぽぽの花の種子のように妻美佐子がブラジルまで飛んで来て、子供を育て黒木の家族が出来たのである。
 それが、今では二十一名の家族に増えて、ブラジルの大地にしっかりと根を下し、そして強いて言えば、たんぽぽの花のようにきれいな幸せの花を咲かせていると言えよう。
 私達夫婦も年老いた今、このような家族に囲まれてほんとうに幸せを享受している。そしてこんなに幸せな家族に導いて下さった神に感謝せずにはいられない。この幸せがいつまでも続いてほしい。 
 さて、私の世代になって、日本からブラジルへ生活の場を移す、謂ゆる「移住」と言う大きな変化を、黒木家にもたらしたわけであるが、自分の子や孫、そして、その後の世代へも「書きもの」として、残しておかなければ、私達の歴史が消滅するような危機を感じたのである。自分史を書く動機はここから始った。
 この自分史は余りにも説明的で面白味に欠けるきらいはあるが、どうか辛抱して読んでほしい。そして一通り読んだら、お前達の子や孫にも読んでもらい、それを本棚に置いて何かと参考にしてほしい。
      二〇一四年八月一五日記

最新記事