なぜ紙を流せないの?=トイレ事情に見る社会的課題

イメージ(Foto:Clay Banks/unsplash)
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 ブラジルでは、使用後の紙を便器に流すことは推奨されていない。その背景には、製品の技術的特性や下水道インフラの脆弱性といった複合的な要因が絡んでおり、排水管詰まりを起こす恐れがあるためだ。こうした便器への投棄を避けるべき理由について、専門家の見解を交えて23日付のG1(1)が報じた。
 日本をはじめ、米国やカナダ、欧州の多くの地域では、トイレットペーパーを便器に流すことが一般的だ。だがブラジルでは便器横の専用ゴミ箱に捨てることが推奨されており、この慣習は他国での衛生的習慣と比較すると異質に映ることもある。
 これには主に二つの要因があり、一つはトイレットペーパーの品質、もう一つは下水道のインフラの整備状況だ。
 トイレットペーパーは一般にセルロースを主成分とし、水中で化学的に溶解するわけではなく、水流により物理的に破砕される構造を持つ。サンパウロ総合大学(USP)の水理学・衛生学部門のルーカス・フエス教授によれば、ブラジルで流通している製品の多くはこの破砕性が低く、さらに2枚または3枚重ねの製品は湿潤強度が高く、分解が妨げられているという。
 ミナス・ジェライス連邦大学(UFMG)環境工学のエンジニア、ラファエル・ブロシャード氏は2018年、コロンビア、スペイン、フランスなどの外国製品とブラジル製品の比較試験を実施。乱流を模した機械で分解度を調査した結果、外国製品は約60%の分解を示した一方、ブラジル製品はほぼ分解しなかったと報告。これは多くのブラジル製品が使用者の快適性を重視し、耐水性を高める樹脂を含んでいるためだとされる。
 衛生陶器メーカー「ロカ社」の製品開発マネージャー、ブルーノ・シルヴァ氏は、「多くの地域では下水設備の整備が行き届いておらず、老朽化に加え、排水管に構造上不適切な屈曲部が存在し、それが水流を阻害する例がある」と指摘。
 米国や欧州、カナダで定められている排水管の最小径は150ミリメートルが一般的であるのに対し、ブラジルは100ミリメートルであることも詰まりの一因となっているという。
 衛生面の観点から、フエス教授は清掃作業者が排泄物に直接触れるリスクを軽減するため、使用済みのトイレットペーパーを便器に流すことが衛生的だと述べる一方で、前述の事情を踏まえ、「現状のブラジルでは、便器横のゴミ箱の使用を継続せざるを得ない」とも指摘している。
 他方、複数の国内紙製品メーカーの代表者は、新築住宅や下水インフラが整った環境下においては、トイレットペーパーを便器に流すことは技術的に可能と評価している。
 トイレットペーパーの処理に関する問題は、単なる消費者の選択を超え、国内の下水道インフラの構造的課題と製品品質の問題が複雑に絡み合った、社会的課題であることが改めて浮き彫りとなっている。

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