鵜澤桜さんに坂尾さん太鼓判=ショーロのパンデイロ奏者=CD『O Pandeiro e a Flor』

編集部を訪れた鵜澤桜さんと坂尾さん

 「アクロバット的な叩き方ができるパンデイロ奏者はたくさんいるけど、ショーロの場合は演奏者全員に合わせてより繊細なセンスが求められるから、一番難しい。彼女は日本人でそれができるトップクラスの人」とブラジル音楽評論家の坂尾英矩さん(94歳、神奈川県横浜市出身)が太鼓判を捺すのは、ショーロのパンデイロ奏者、鵜澤桜さん(東京在住)だ。12日に二人で編集部を訪れた。
 2年前にリオのニテロイでロジェリオ・ソウザとの共同プロデュースによりロナウド・ド・バンドリンやチアゴ・ソウザ、エドアルド・ネベスらと録音した曲を、年末に日本で自己プロデュースCD『O Pandeiro e a Flor』としてリリース。今回CD発売も記念してリオでショーをするためにやってきた。
 ショーロやMPBの名曲が散りばめられており、中でも6曲目「Uma Flor pra Sakura(桜に贈る一輪の花)」はショーロ界のトップ奏者ロナウド・ド・バンドリンが彼女のために作曲した記念曲だ。全編とても繊細で優しい、穏やかだが、どこかに哀愁が漂っている雰囲気の曲ばかり。「これぞショーロ」と言えるCDになっている。
 鵜澤さんにパンデイロを始めたきっかけを尋ねると、「2003年ごろに山崎まさよしがパンデイロを叩くユニクロCMを見て、衝撃を受けた。初めてブラジルにはボサノバやショーロという音楽があることを知り、パンデイロを買い求めて、最初の1カ月に叩いて叩いて12キロ痩せるぐらいハマってしまいました。体はボロボロなのに、心は高揚しているという感じでした」と思い返す。
 それを聴きながら、坂尾さんは「ああ、恋煩いだね」と横から優しく相槌を打った。
 その後、鍵盤ハーモニカもやったが、12年前にジョルジーニョ・ド・パンデイロに出会って、再び感動してパンデイロに戻ったという。
 ショーロのどこに惹かれたのかと尋ねると、「哀愁があるところ。歌詞がない分、余計に当時の想いがメロディやリズムに濃厚に漂っているのを感じる」という。

リオのショーのチラシ

 坂尾さんは「あのショーロ界の大御所ロジェリオ・ソウザをして『ブラジルには勿論パンデイロの名手は大勢いるが、ショーロの本場リオを除けば、私が一番好きなのは桜だよ』と言わしめた。ブラジル人の若者が見向きもしなくなった音楽を、日本人が立派に演奏している。終戦直後に新憲法を制定する際、連邦議会では日本移民はブラジルに溶け込まない硫黄のような人種だと言われて、日本移民入国禁止条項が入れられそうになった。これは、そんな動きをした政治家たちに対する、日本人がいかにブラジル文化を理解できるかというアンチテーゼだよ」と彼女の存在価値を歴史的に語って笑顔を浮かべた。
 今回は4月29日に来伯し、リオで6月19日と28日に特別招待者として一流奏者らのショーで共演、さらにCD発売記念コンサートも企画中、その後、7月初めに帰国するという。公式サイト(https://www.sakuradopandeiro.com)。

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