【ブラジル日本移民115周年記念特集】《記者コラム》3大会先まで楽しみなサッカーW杯=続々と現れる神童や逸材に期待

 優勝候補と目されながらも、準々決勝敗退に甘んじてしまった昨年のサッカーW杯。だが、ブラジルサッカーの未来は現在かなり明るいものだ。期待の若手の台頭が著しく、彼らが現在、欧州のサッカー・リーグの中心選手として活躍中。しかも、その年齢の層もかなり厚いものとなっている。ここでは、そんなブラジルのサッカーの現状を検証することにしたい。

世界一を体験した22歳の神童2人が中心に

2018年、ヴィニシウス(2018年、Real Madrid, via Wikimedia Commons)

 今後のブラジル代表(セレソン)は、これまでと大きく変わっていくはずだ。W杯を過去3大会牽引したのはネイマール。体そのものは強い選手なので34歳となる次の大会も出場できないことはないだろう。だが、今や彼を中心にしないと勝てないような戦力では全くない。試合を牽引していくのはもっと若い世代だ。

サントス時代のロドリゴ(2018年)

 その中心となるのは間違い無く、ヴィニシウス・ジュニオルとロドリゴ。22歳のレアル・マドリッドのコンビだ。共に17歳の頃から「神童」として国際的に注目されレアルと高額契約。その間、レアルはクリスチアーノ・ロナウドを失ったが、フォワードに過剰な大型補強を行なわない方針の下、2人は大事に育成された。
 その結果、両者ともに20歳過ぎにはチームに欠かせぬレギュラーとなり、2022年の欧州チャンピオンズ・リーグでは優勝も経験している。
 この2人がこの先もレアルで共に中心選手となれば、長きにわたり大きな国際舞台が経験できるし、それによるかけがえのない試合勘もつく。これがセレソンにもたらされれば、かなりの財産だ。彼らの年齢だと2大会先の7年後のW杯でもまだ29歳。ヴィニシウスを左ウイング、ロドリゴを右ウイングかトップ下、というスタイルで軸を固定していけば長期での安定も期待できる。

 

様々な組み合わせが可能な攻撃陣

2019年、リシャルリソン(Palácio do Planalto from Brasilia, Brasil, via Wikimedia Commons)

 チッチ監督時代、期待されながらW杯で勝てなかったのは、調子が出ない時に他のパターンに懸けられなかったことだが、現在の若手たちにはそれが可能なコマの豊富さがある。
 まずはリシャルリソン。その実力は華麗なオーバーヘッド・キック決めた昨年のW杯でも実証済み。所属のトッテナムでは監督との衝突から実力が発揮できていないが、信頼感で任せると良い仕事をする。次にマルチネッリとガブリエル・ジェズス。今季のイングランド・プレミア・リーグでアーセナルを2位におしあげた原動力の2人だ。
 今季のプレミアで伯人最多得点のマルチネッリはヴィニシウスと守備位置がかぶるが、ヴィニを2列目のサイドにしてマルチネッリを2トップの左にするなどしても面白そう。彼も22歳と若い。ジェズスはリシャルリソンと贅沢なセンターフォワード争いをさせたいところ。右ウイングには昨年W杯経験組の23歳アントニー(マンチェスター・ユナイテッド)やラフィーニャ(バルセロナ)もいる。

ようやく「欧州流」に慣れてきた中盤

 続いて中盤だが、この8年くらいのセレソンはここが泣き所だった。欧州の主流スタイルとブラジルのそれに開きが出ていたからだ。ブラジルの場合、守備型のボランチと攻撃型ミッドフィールダーをはっきり分ける傾向が強く、それが欧州のようなオールラウンダーを育てにくくしていた。それゆえか、ディフェンス型中盤にはカゼミロ(マンチェスター・ユナイテッド)のような好選手が育つものの、それ以外が手薄になりがちだった。
 だが、ここ数年、イングランド・プレミア・リーグに選手を積極的に送り出すことでようやく対応出来始めている気配がある。プレミアで今季4位のニューキャッスルのブルーノ・ギマリャンエスにジョエリントン、アストン・ヴィラのドウグラス・ルイス辺りにそうした対応が期待できるようになってきている。
 また昨年のW杯レギュラーのパケター(ウェストハム)も以前は攻撃により過ぎて守備に難があったが、だいぶこなせるようになり信頼度は上がっている。

むしろ不安は得意だった守備

 攻撃・中盤の層は厚くなったが、その逆にむしろ守備は過去よりも不安材料が増えている。
 それでもセンターバックは問題ない。レギュラーにミリトン(レアル・マドリッド)にマルキーニョス(PSG)、控えがイバニェス(ASローマ)にガブリエル・マガリャンエス(アーセナル)なら十分豪華だ。
 だが気になるのはサイドバックだ。W杯組のダニーロ(ユベントス)やアレックス・テレス(セヴィージャ)はいるが、彼らは30歳すぎ。それ以外は世界クラスとなるとエメルソン(トッテナム)くらいで後がいない。もともとセレソンが強いポジションだったのだが、ここに若手の成長が求められる。
 キーパーはアリソン(リバプール)、エデルソン(マンチェスター・シティ)の世界屈指の2枚看板で次のW杯までは大丈夫だろうが、ベント(アトレチコ・パラナエンセ)のような若手にも期待したい。

10代に逸材多数

 さらに現在のブラジルサッカー界の強みは10代選手に逸材が目立つことだ。目玉はなんといってもレアル・マドリッドと巨額契約を果たしたばかりの16歳エンドリック(パルメイラス)、18歳で国内屈指のストライカーとなっているヴィットル・ロッケ(アトレチコ・パラナエンセ)。
 この2人が招集されない中、U20W杯でセンターフォワードとなった20歳マルコス・レオナルド(サントス)。さらにボランチながら得点も量産できる、久々に現れた中盤の大物19歳のアンドレイ・サントス(ヴァスコ)と楽しみな選手が目白押し。
 彼らが順調に育つならば、3大会先の2034年のW杯まで安心できる。あとはそれら選手にふさわしい監督が早々に決まればだが…。(陽)

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