連載小説=自分史「たんぽぽ」=黒木 慧=第144話

 団体の外国旅行ならガイドが居るので言葉の苦労は余りないけど、二人きりで旅すると英語の解らない私達はかなり苦労する。でも何とかなるものである。その点、ポルトガル語やスペイン語圏では、私達の語学力で何とか通じるものである。だから中南米とかスペイン、ポルトガルなどならカタコトの会話で何とか通じ合えて面白い。
 今までの世界に向けての旅はヨーロッパ六ヶ国、北米はアメリカは十回以上通過しているけど一度も旅はしていない。カナダはトロントとバンクーバーを旅した。寒い所だけど、住むには良い所のようだ。中米は余り行ってないけど、パナマとプエルトリコに立ち寄った。南米は殆どの国に足跡を残して来た。北から書いてみればベネズエラ・コロンビア・エクアドル・ペルー・ボリビア・チリ・パラグアイ・ウルグアイ・アルゼンチンといずれも楽しい思い出の旅であった。今まで旅したこれらの国々は予備知識が充分でないまま現地に触れたけど、出来れば事前に少しでも勉強して行けばもっと面白いと思う。
 そして、ブラジル国内も殆どの観光ポイントは旅して来た。旅の初期の頃はコチア組合のGPH(野菜生産者グループ)に混じって、そのあとは私が世話役の花作り仲間との旅で、又宮崎から来た研修生を引率しての旅も結構多く楽しんだ。近年は趣味仲間を誘っての旅が多い。豪華客船でアルゼンチンとウルグアイにも私が世話役で旅をした、みんなが黒木さんのお蔭で楽しかったと喜んでくれた。私は皆にそう言われるとほんとうに幸せな気持ちになる。と言う私も「よわい」八十歳に近く、美佐子も七十五歳と老年盛りである。今後いつまで健康で旅が楽しめるか分らないけど、サイフのお金と相談しながら無理のない旅を楽しみたいと願っている。私の先輩の熟連ク会長の五十嵐司さんは今年の初めに八十八歳で日本に行って来たので、私だってまだ十年間位は大丈夫だろう。世界地図の上で、国内地図の上で、まだ行ったことのない所へ夢はふくらむのである。
 (七) 言葉(ブラジル語)について……私は日本の中学と高校で必修課目として英語を習って来たけど、一般の日本の学生と同じで、「話せる会話力」はほとんど身につかなかった。そこでブラジル行きが決った時には、現地に飛び込めば、ポルトガル語はひとりでに話せるようになるだろうと楽観していた。
 現地ブラジルでは確かに最小限必要な言葉は何とか覚えたけど、六十年近く住んだ今でもまだ、ブラジル語の新聞の意味も解らず、会合などに参加しても話の内容がよく解らない。若い頃にもっとやる気を起こして勉強すればもっと上達出来ただろうに、今この老境に入って意欲も減退して、おまけに聴覚も視覚も衰えて来たので諦めの心境である。言葉は必要に迫られないと覚えないものだ。

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