特別寄稿=めでたさも 中位なり おらが春=どうなる?! ブラジル新年度 サンパウロ市 駒形 秀雄

 日本では新しい年を迎えると、大体その年がどんな年になるのか、それで自分は何をしたらよいのか、と考えたり、計画を作ったりするようです。
 それでは私達の住むブラジルの新年、2022年は一体どんな年になるのか? 何となく気持ちが新しくなる、明るい年になるような気がするのですが、さてどうでしょう。
 折は良し、皆様とご一緒に、この辺を考えて見ましょう。 

コロナ病がぶり返すのでないか

 2020年頃から猛威を振るったコロナCovid―19は、昨年末にかけて急激に勢いが弱まり、さては、我々の防疫努力、ワクチン接種が功を奏して、コロナを制圧できたのかと喜ばせました。
 レストラン等も店にお客を迎え入れる様になったし、スポーツ、音楽などの観客も制限付きながら入れるようになりました。
 ところがここへ来て、オミクロンとか言う「新株」が現れ、あれよあれよと言う間に蔓延再開です。フランス、イギリスなどの先進国でも罹患記録更新ですし、世界の大国アメリカでは一日の感染者が百万人を越えたと言うのです。
 こうなると、なんでも先進国の後を追うブラジルも負けてはいません。今日あたりの発表では、感染者の1日平均2万3500人、その累計、2250万人と言う拡散ぶりです。最近の死亡者は123人/日となり、始めからの累計は62万人、恐るべき数字になって居ります。
 今後どうなるかも予断を許しませんが、密集回避とか外出制限とか縛られることを嫌う人の多いこの地では、やはり『コロナ禍再来』になるとの見方が有力です。
 「コロナ禍→活動制限」となると人は外食などに来れない、人や商品の移動も減るで経済に直接の影響が出て来ます。医療でよく言う「早期対策」が必要になりますね。

ボルソナロ大統領(Marcelo Camargi/Agencia Brasil)

 その早期の防護対策ですが、これを計画、実行すべき行政府の体制は不十分と言われています。これらの方向を決めて総括指揮を取るべき肝心のボルソナロ大統領が、「防疫のためのマスクなんか付けなくてよい」「ワクチンなども効果に疑問があるのだから、これ(接種)を義務付けてはならない」など一般大衆の感じ方と全く逆の事を喧伝するのです。
 ここで諸事に詳しいご隠居、古川先生のご意見です。
「ボルソナロが自分でそう信じているなら、それはそれで仕方がないさ。でもね、一般国民にまでそれに『前ならい』しろと言うのはいかんね。大統領が無知なのは仕方がないとして、大統領を取り巻くブレーン(頭脳)は居ないのか。日本の政治家を見てみろ。ブレーン(官僚)が文句のつけ様の無いような立派な回答書を作成し、政治家はそれを読み上げるだけ、答弁で顔を上げる時間もない有様じゃないか。で、どっちもどっちだが、合理性に欠ける変な声を上げるよりは良いね」でした。

10月2日に総選挙

 そういう国の大方針や、我々の税金の使い道、公社株の売却など、行政の大事な仕事を担う大統領、州知事、連邦議員などの総選挙が今年10月2日に行われます。
 国民は今度の選挙こそは良く検討して「国民の考え方と異なる、頭のおかしいような人」「自分一派の利益ばかり考えて、折角の国民の税金を横に流すような人」を選ぶまいと決めています。

ルーラ元大統領(Valter Campanato)

 選挙の中で特に注目を集めているのはやはり大統領選ですが、これに立候補する人は多く、噂されている人だけで10人以上は居ります。特に注目されているのは、ルーラ元大統領、ボルソナロ現職大統領、モロ元判事、シーロ・ゴメス元大臣などです。(別表参照)

モロ氏(Fabio Rodrigues Pozzebom/Agencia Brasil)

 正式に候補となるには各人の所属政党が党大会などを開いてから決める訳で、現時点での予測は時期尚早なのですが、特に注目されているのはルーラ元大統領関係です。ルーラ一人でも当選可能性は大ありなのに、『元サンパウロ州知事アルキミンがルーラ陣営に加わり、副大統領候補として参戦する』という噂がパット広まったのです。
 アルキミンは、ルーラのPT党とはライバル政党となるPSDB候補で、前に大統領選でルーラと争ったこともあります。サンパウロ州を中心とした企業家達からの支持も強く、「保守派」と見なされていた人なので、これは《大ニュース》です。労働者(左派)と企業家(保守派)の連合で、最強の布陣で、まず当選確実です。

候補の一人、シモネ・テビチ上院議員(こんな美人が大統領候補とは)

 ここでも政治に詳しい古川ご隠居の意見を聞いて見ましょう。
 「ルーラはもう2期も大統領をやり、今になっては汚職関係の悪い印象も薄れ、むしろ『良い業績を上げた』と評価されている。もう若くもないのだから、再び政界前線に出て来て、切ったり切られたりすることはない。自分好みの若い候補を支援、当選させる、そして自分は『後進の育成に尽力する』と高見でゆっくりすればよい。その方が自分の生活や健康にも良いし、国の為にもなる」
 そして日系の議員候補については、「現職の西森、片桐の他、サンパウロの飯星(元)も当然再選を狙う。他に有望な候補者もいる。ボルソナロ大統領のコロナ失策の片棒を担いだとして有名になった山口ニゼ女医も上院に出馬するとのうわさがある。日系の地位向上の為にも全員に当選して貰いたいね」でした。

めでたさが全開とは行かない経済界

 政治が少しくらいゴタゴタしたところで、経済界がしっかりしていれば、国も国民も安心なのですが、2022年はどうもそうなると言えない情勢なのです。
 ひとつには揺れ動く外国の要因です。欧米の他、中国やロシアまで経済が伸び悩んで、その影響がブラジルにまで及んでいます。
 もう一つは現れ始めた国内のインフレです。インフレ自体は年2%位まではむしろ景気が上向きの印象を与えて活気付くのですが、これが年間10%を越えるといけません。悪性インフレに向かうからです。ブラジルの昨年(21年)のインフレ(IPCA=消費者物価指数)は10・06%でした。2015年以来の高インフレです。
 これは身近で分かります。最低給料は今年から10・18%上がり、R$1212になります。それは国の金庫からの400億レアルほどの支出増になります。また、最低給料引きあげ率は各種公共料金改定の「基準」にもされ、電気、水道代なども値上げです。家賃、月謝なども同じ事です。昨年度燃料費は47%上がり、ディーゼル油を使うバス代も値上げです。
 それで政府がしっかり消費者防衛策を考えて呉れれば良いのですが、それは二の次、選挙目当て、票めあてのばらまき政策ばかり打ち出します。生活困窮者向け、生活保護料に数百億、何とか補助金に数十億、何れも国庫からの支出ですから、これがインフレ高進に繋がる訳です。
 それでも、その支出が経済活性化、好循環に繋がれば良いのですが、そうは行かない。
 経済の実体が伴わないで、借金ばかりが増えているのです。国際通貨基金IMFの予測ではブラジルの経済成長率は0・8%~1・9%(他の新興国は平均5・1%の成長)です。一口で片付けては申し訳ないが、国際金融筋の観測では「今年はブラジルの成長はあまり期待出来ない」なのです。
 金利も景気に影響を及ぼしますね。一般に金利が低いほど経済は活気付きますが、ブラジルでは中央銀行の通貨政策委員会(Copom)が昨年来金利を引き上げて来ており、現在はSelic(政策基本金利)9・25%/年、2月には10・75%に引き上げる方針です。政府としては金利を高くして市中のお金を集め、これで昂進しそうなインフレにブレーキをかけたいところなのでしょう。本年末のレートは11・5%目標とのことです。
 この数字、皆さんが銀行に預けてある預金の金利とインフレによる貨幣価値の下落(目減り)とを突き合わせて考えてみて下さいね。

約7万人の住民が住むブラジル最大のリオのファヴェーラ「ロッシーニャ」(Chensiyuan, via Wikimedia Commons)

それで? プラスの話はないのか

 政府も不況やインフレに追われてオタオタしているばかりではありません。石油公社ペトロブラスの製油所(バイア州とアマゾナス州)を民間に売却したり、公社所属の港湾や鉄道の権利を民間に売却して、政府が使える資金を作ったりしています。
 それと別に国庫が、社会経済開発銀行(BNDES)に低利で貸していた資金(1千億レアル)の一部(620億レアル)を国庫に引き揚げで、国が使えるお金を増やしてもいます。
 国にはもう一つ別の明るい話もあります。それはブラジルには国際的に通用する輸出商品が有るという事です。具体的にはコモディティ―商品(原油、鉄鉱石、穀物類など)で、これの価格―相場は世界的な需給によって動きます。
 この価格が上に振れればブラジルにはそれだけ(外貨で)収入が増える仕組みです。事実今まで、この相場は上に振れる事が多く、このため最近のブラジルの外貨収入は黒字、国の経済発展に寄与しています。
「何だ、真面目な話をしているのに、そんな『もしも価格が上がったら、なんて宝くじみたいな話はするな!』」と怒られそうです。ですが、そういう話をしようにも『タネ』もない国も多いのですから、それからみたら恵まれていますよね。
 各種、経済専門家の観測では成長が期待出来そうもないブラジル新年度経済ですが、も少し前向きの『もしも』話を致しましょう。
 今年の選挙です。御覧の様に、大統領選挙では1グループが圧倒的に優勢で他候補を引き離しています。このまま内輪揉めをせずに当選すると国民からの支持票をバックにした強力政権が出来ます。議会でも首長が元々多数派を占める党の出身だと、安定した政策実行が出来ることでしょう。
 一方、過去の不手際から出て来た『インフレ圧力』も22年度中に吸収されて、23年度は綺麗な状態で政治を出来る可能性があります。政治が安定して、経済も束縛から開放されると新し展開、発展が出て来ます。
 ここで、古川先生の最後のコメントです。
「今年はトラ年だが、雌伏でエネルギーを貯える。そして、その次はウサギ年だから、このエネルギーをもとにピョンと大きく飛躍する。どうだ、やっぱりこの国は素晴らしい未来があるだろう」
 新しい年の初めであります。皆様の初夢は如何でしたか? 悪い事にはケリを付け、心機一転、希望を持って充実した日々を迎えましょう。
(※ご感想などは=> hhkomagata@gmail.com

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