
【既報関連】第78回カンヌ国際映画祭授賞式で24日、ブラジル映画「シークレット・エージェント」の主演を務めたヴァギネル・モウラが男優賞を、監督のクレベール・メンドンサ・フィーリョが監督賞を受賞し、異例の主要部門二冠を達成した。最高賞パルム・ドールにもノミネートされた本作は、授賞式当日に公式上映され、長時間のスタンディングオベーションを浴びた。同日付のテラ(1)(2)などがその反響や評価を伝えている。
本作は、1977年の北東部レシフェを舞台に、軍事独裁政権下の政治的緊張と個人の記憶・抵抗を描いたサスペンス作品だ。主人公は、過去を捨て穏やかな生活を求めてサンパウロから移住した元大学教授のマルセロ(ヴァギネル・モウラ)。奇しくもカーニバルの週に移住した彼は、祝祭の喧騒の中、次第に暴力と混沌の渦に巻き込まれていく。
マルセロは公文書館で勤務しながら、亡き母の存在を裏づける書類を探し求める。母親は先住民族の出自をもつ家政婦で、10代の頃に仕えていた大農園主の息子に妊娠させられた過去を持つ。マルセロの探索は自身の出生の真相をたどると同時に、体制によって抹消された個人の記憶と存在を取り戻す試みでもある。
一方で、彼は反体制派の活動家が身を寄せるアジトで潜伏生活を送る。寡黙な学者だった彼は政府高官による研究特許の横取りに抗議したことをきっかけに、命を狙われる立場となっていたからだ。やがて不穏な出来事が日常化し、政権関係者が2人の暗殺者を差し向けた事実を知ったマルセロは、国外脱出を真剣に考え始める。
BBC(3)は本作を「スタイリッシュかつ活気あふれる政治スリラー」と評し、「繊細さに欠ける部分を娯楽性で補っている」と指摘。カーニバルの喧騒を背景に、セックス、銃撃戦、殺し屋、ヴィンテージカーが画面を彩り、サメの腹から発見された人間の脚が蘇って復讐するというシュールな描写も登場。BBCはこの過激な演出について「タランティーノが熱狂するのも時間の問題」とも評した。
一方で、派手な演出の背後には庶民の不安や悲劇が如実に描かれており、現実に根ざした社会派映画でもある。BBCは、登場人物が「感動的に高潔な者」と「露骨に悪辣な者」として明確に描き分けられており、とりわけ地元警察署長が悪の象徴として強調されている点に注目してた。
クレベール監督にとり『アクエリアス』(2016)、『バクラウ 地図から消された村』(2019)に続く3度目のパルム・ドール・ノミネート作品となった。主演のモウラは「ポルトガル語で再び演じられたことが解放的だった」と語り、本作を「ブラジルらしさを色濃く反映した作品」と評した。
上映時間は2時間30分超と長尺で、BBCは「寄り道が多すぎると感じる観客もいるかもしれない」と指摘する一方で、本作が今年3月にアカデミー賞を受賞した『アイム・スティル・ヒア』に続く注目作であると報じている。
ブラジル国内での劇場公開日や配信サービスについては、現時点では発表されていない。