
中東レバノンのイスラム過激派組織が南米に?――米政府は、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイの三国国境地域において、過激派組織ヒズボラの違法な資金調達に関与する人物や団体に関する情報提供者に最大1千万ドル(14億4千万円相当)の報奨金を支払うと発表した。ヒズボラはこの地域を拠点に麻薬密輸や資金洗浄などで資金調達し、さらにラテンアメリカ各国の建設業や不動産などの商業活動にも関与しているとされ、米当局は長年その動向を注視していた。21日付CNNなど(1)(2)が報じた。
これは、米国務省による報奨金プログラム「正義の報酬(Rewards for Justice)」の一環であり、三国国境地域におけるヒズボラの金融ネットワークの解明を目的とする。制裁対象リストには、ブラジル南部パラナ州フォス・ド・イグアス市やその周辺地域に拠点を置くとされるアラブ系の人物や団体が多数含まれ、ヒズボラだけでなく、ハマスやイスラム国(IS)などの過激派組織の資金調達にも関与すると疑われている。
フォス・ド・イグアス市はブラジル国内で第2の規模を誇るアラブ・ムスリム系コミュニティを抱え、80年代以降、イタイプ水力発電所の建設を契機に定住が進んだ。83年には南米最大規模のモスク「オマール・イブン・アル=ハッターブ・モスク」も開設され、同市は国内初の「ハラール対応観光地」としての認証取得を進めるなど、イスラム文化との結びつきが地域社会に根付いている。
同地域でのヒズボラの資金源は、資金洗浄、麻薬取引、石炭や石油の密輸、ダイヤモンドの違法取引、現金やタバコ、高級品の密輸、文書や米ドルの偽造など多岐にわたる。建設業や不動産の輸出入および販売を通じた商業活動も収益源としている。
米国務省は、ヒズボラの収入源、金融支援者、銀行や両替業者、関連企業や犯罪スキームに関する情報を求めており、これらの情報は厳重に秘匿されるという。民生用と軍事用の両面で使用される技術の国際的な調達に関与するペーパーカンパニーの存在や、ヒズボラのメンバーや支持者が関与し、組織に利益をもたらす犯罪スキームの解明も求められている。ヒズボラはイランからの支援や国際的な投資、寄付ネットワーク、汚職、資金洗浄活動により年間約10億ドルの資金を得ていると推定されている。
米政府によると、ヒズボラは80年代から西半球に存在し、特にブラジル、アルゼンチン、パラグアイの三国国境地域における活動が際立っている。これまでに同組織は、92年のアルゼンチンの首都ブエノスアイレス市にあるイスラエル大使館への攻撃、94年7月18日に同市で発生し85人が死亡したユダヤ相互扶助協会(AMIA)爆破事件、94年にパナマのコロン市で発生したパナマ航空00901便爆破事件など、ラテンアメリカでの複数のテロ攻撃に関与しているとされる。国際的な調査ではこれら事件にはイラン政権の関与も指摘されている。
2024年にはブラジル連邦警察が、ヒズボラによるブラジル人の勧誘活動を資金面で支えるスキームに関して捜査が実施された。