小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=140

 ジョンがターヴォラ耕主と同じような威厳を意識して言う。悪党ぶりも身についている。
 時間になった。手下の二人が石油に浸した火炎瓶をもって二軒の家に近づいた。犬が吠え出す。ジョンが横側からピストル一発で射止めた。男たちの投げた火炎瓶は椰子の葉で葺いた囲い辺りに燃え上がった。一面が火の海となる。慌てふためいて飛び出してくる男どもを次々とジョンは狙撃した。表も裏も住人の泣き叫ぶ声と銃声が入り混じった。左側の家を狙った火炎瓶は中庭に落ちたが、ジョンがその家屋に集中弾を浴びせた。
 中央のアギアル家の窓から応戦する弾丸の火筋が走った。それは攻撃側の何分の一の火力しかなかった。前方の隊員がアギアル家の表戸に総攻撃し、その中に飛び込んで行った。木の株を楯に冷静に構えているジョンに比して、中央の連中はいささか無謀だ。これはターヴォラの命令によるものだが、アギアル家から逃げ出したのは下女と下僕の数名のみだった。ジョンの自動小銃は逃げ惑う女子どもさえ容赦しなかった。田守はその残酷さに眼をそむけた。
 一方的と言える攻撃が半時間近く続いた。抵抗が止むと、辺りは何事もなかったかの ような静けさにもどった。家屋を焼き続ける火炎が、その場の惨状を照らし出していた。
 ジョンは、まだ撃ち足りないのか、左側の焼け残った椰子葺きの家に向けて乱射した。その時、既に全員死に絶えていた筈の家屋から、一人の娘が枕のようなものを抱いて、裏の草むらに走って行くのが見 えた。(また、ジョンの餌食になる)田守は眼を瞑った。が、銃声はなかった。眼を開けると、ジョンが銃を放り出して娘を追っている。捉えて肩から衣服を剥がそうとした。この場で、そういうことがあり得るのか信じがたいことだが、眼前でそれが始まろうとしている。一瞬、田守は母親が男に強姦される幻惑にとらわれた。無意識に走り寄り、力任せにジョンの利き腕を引っぱった。
「止めるんだ!」
 と叫んだ瞬間、田守は頭部にジョンの一撃を受けた。なお娘を押し開こうとしている男を背後から押さえつけ、怒鳴った。
「止めろと言うのに! 気でも狂ったのか」
 ジョンは、田守に向きなおり、再び殴りかけてきた。田守は素早くそれをかわし、逆にジョンの胸板へ、力任せに拳突きを見舞った。
「悪人もいいところだが、か弱い娘を手ごめにするとは卑怯だぞ。さあ行くんだ。こんな所でぼやぼやしていると危ない」

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