ブラジルの大学受験=長野育ちの日系4世の挑戦(8)=ブラジル特有の入試〝心理戦〟

ENEM試験用紙

 ブラジルの大学に入るには大まかに二つの方法がある。一つは各大学が実施する選抜試験を個別に受ける方法。もう一つは、大学共通テスト「ENEM」を受け、その結果を使って入学資格を得るという方法だ。
 まず個別試験での入学方法について、今回は国公立大学の試験内容について述べたい。
 ぶラジルの国公立大学では1、2次試験が実施される。1次試験は選択式問題に答える内容で、試験結果の平均点などから2次試験に進める最低点が算出され、足切りが行われる。
 2次試験は筆記問題と小論文。小論文は特に配点が高く、得点の稼ぎどころ。出題されるテーマには各大学の特徴が反映され、個別に対策を練らないとかなり苦戦する。
 私の志望校のサンパウロ州立大学(USP)は、伯国や世界で話題になっている社会問題をテーマに用いる傾向が強い。最近出されたテーマは「一般教育と職業訓練:マルチタスクと熟考のはざま(Educação básica e formação profissional: entre a multitarefa e a reflexão)」だった。
 ちなみに、2014年度のテーマは「人口の高齢化」で、参考資料として添付されたイギリスメディア「The Guardian」の記事には、当時財務大臣だった麻生太郎氏の高齢者差別発言の一部が紹介されていて驚いた。
 続いて、ENEMの試験結果を使って大学に入る方法、中でも理解するのに苦労した「SiSU(統一選抜システム)」について述べたい。
 SiSUには伯国の国公立大学が登録されており、受験生はENEMの結果が出た後、オンラインでシステム上から希望大学に受験申し込みを行う。この時、ENEMの自分の点数が、大学の設定する合格基準点より高ければ入学資格を得ることが出来る。
 ここで注意しなければならいなことが二つある。一つ目は、各大学の学部はENEM試験結果の配点比率を独自に変えられるという点だ。
 例えば、ENEMで総合得点が同点だった学生AとBがいたとする。Aは理系科目が高得点で、Bは文系科目が高得点だった。2人が同じ理系学部に出願した場合、その学部が理系科目の配点比率を高く設定していれば、Bのように文系科目でいくら高得点を取っていても評価されず、Aの方がはるかに有利になる。
 二つ目は、大学の合格基準点は、出願受付期間の3日間、毎日刻々と変化するということだ。これは、入学枠の人数を基準に算出される。そのため、たとえば出願者が書き込むENEM得点が高いほど、上から順に何人と決められる枠の足切りポイントを示す合格基準点も高くなる。
 SiSUを使って出願できる大学は二つまで。期間中なら一度出願した後でも、出願先は自由に変更できる。受験生は毎日発表される合格基準点の変化の推移から、他の受験生の心理状況を読み、最終出願を行う。
 「今日の合格基準点には3点足りないが、初日から合格基準点は下がり続けているから受付最終日にはもっと下がるはずだ…。しかし、同じことを考えている奴や滑り止めで出願する奴が集まってきたら、合格基準点は上がってしまって、この点数だと不合格か?」などという受験生同士の〝心理戦〟が発生する。
 ブラジルでは、試験に合格しても諸般の理由から入学手続きで躓き、入学辞退する者や、入学直後に「自分の想像と違った」などという理由から退学する者も多いため、補欠合格者が繰り上がる枠はけっこう多い。
 この原稿を書いている1月23日は、SiSU受付期間の2日目。心理戦にハラハラドキドキ、冷や汗をかきながら原稿を執筆している。合格できるなら補欠であっても構わないが、出来ればストレートに合格できるよう祈っている。(松永エリケさん、続く)

最新記事