県連ふるさと巡り南大河州編=誕生と終幕、南伯に新胎動=(10)=「残される者はつらい」への共感

江藤さん

 3月19日、ヴィラ・ベルガから宿泊していたホテルへ戻り、サンタマリア空港へ行くまでの間、一行は一休みしていた。ロビーの出口そばに座っていた兼松プリニオ毅さん(つよし、84歳、2世)、木原恵美子さん(84歳、和歌山県)と江藤キヌヱさん(83歳、福岡県)の3人に混ざって、記者も雑談に花を咲かせていた。
 他愛のない話が続く中、突然「4年前に夫がなくなったの」との話題が木原さんから振られた。驚く記者を傍目に、他の二人はそれに動じることなく、「同じようにパートナーを亡くしている」と共感をこめて告白した。それをキッカケに、今は亡き最愛の連れ添いとの懐かしい記憶をたどる会話に流れが変わった。
 兼松さんは商売人で自分の店を持っていた。ある時、強盗が入り、銃で脅され、店の前に止めてあった車の鍵を渡した。店の近くまで来ていた妻が、知らぬ男が車に乗って運転していくのを目の当たりにし、夫に「どうして車をあげちゃったの」と尋ねた。強盗だったことを夫が説明すると「お父さん、怪我がなくて良かった」と妻は急に身体から力が抜けた様子になり、涙まで流しながらそう言ったという。
 兼松さんはさらに「一度銃弾を2発くらったことがあって、ちょうど胸ポケットに入ってたプラスチック製の櫛で銃弾が運よく逸れて心臓に当たらなかった」と衝撃的なエピソードを語り、亡き妻から受けた数々の愛情のこもった逸話も語った。
 木原さんの夫は肺がんで亡くなった。当時開発中だった試験薬を用い、一時はすっかり元気になったが、寛解には至らなかったという。「日本と彼の生まれ故郷の台湾へ連れてってやるって言われてたの。でも間に合わなかったな」と悲しげな表情を浮かべた。
 江藤さんの夫は医者から余命4カ月と宣告された。その後にゲートボールやカラオケなどの活動を始めて生きがいとなり、結局は2年7カ月も延命した。「一時は治ったんじゃないかって思って、ちょっとホッとしていた。でも向こう側に逝っちゃった」とため息をついた。
 「先に逝く方がいいね。残された方が耐えがたい」との意見もあれば、「数カ月で振り切れた」との声も。とはいえ、今も心の奥底に残る切なさ、寂しさは隠せないようだった。
 思えば、ふるさと巡り参加者のかなりの部分は同じように配偶者に先立たれた人達だ。「残される者はつらい」という一言に共感する参加者は多い。そんな参加者が見せる優しい笑顔の裏には、長い人生を共に過ごした連れ合いとの日々を断ち切られたつらい経験があるのだと気づいた。
 ふとロビーで待機をする一行を見わたすと、一人一人の顔に浮かぶ笑顔に、そんな経験が刻まれているのではと思えて来た。「さて、悲しい話はやめようか」と3人は立ち上がり、さわやかな微笑みを浮かべながら、サンタマリア空港へと向かった。(続く、仲村渠アンドレ記者)

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