《ブラジル》独立200周年で初代皇帝の心臓到着=ポルトガルからの貸し出し=政治利用と保管法に懸念も

ブラジリアに到着したドン・ペドロ一世の心臓(Marcelo Camargo/Agência Brasil)

 22日、ブラジル帝国の初代皇帝だったドン・ペドロ一世(在位1822〜31年)のホルマリン漬け心臓がブラジリアに届けられた。9月7日に独立200周年を迎えることを記念し、特別に貸し出されたもの。この輸送が科学者たちの間で問題とされ、物議も醸したが、ブラジルは「生きている皇帝」さながらに歓待している。21、22日付現地紙、サイトが報じている。
 ドン・ペドロ一世はポルトガルではドン・ペドロ4世として知られる。1834年に亡くなったが、本人の遺言によりその心臓は祖国ポルトガルに寄贈された。現在は同国第2の都市ポルトのノッサ・セニョーラ・デ・ラッパ教会の中で保管されている。
 この心臓のブラジルへの短期間の貸し出しは今年2月に外務省がポルトガルに対し、建国200周年を祝うということで希望。ポルトガル側とポルトの市議会の了承を得、6月に貸し出しが決まった。
 心臓は22日に空軍機によりブラジリアの外務省に到着。23日には心臓到着を祝う式典がボルソナロ大統領立会いの下、大統領官邸で行われる。式典にはポルトガル王室の一族も招待されている。
 心臓はホルマリン漬けされたガラスケースの状態で、23日から9月5日まで外務省で展示される。外務省では、「心臓は187年も前からのもののため、五つの鍵が必要なほど厳重に扱う必要がある」と語っている。
 心臓の展示はポルトガルでも稀だが、輸送される直前の20~21日には一般公開されて話題となっていた。
 ブラジルがポルトガル王室の遺体の一部を移動させることはこれが初めてではない。1972年の建国150周年の際には、当時の軍事政権がドン・ペドロ一世の遺骨を閲覧できるように複数の市を回らせた。遺骨は現在、サンパウロ市南部イピランガにある独立記念公園内の記念館の特別廟に保管されている。

ドン・ペドロ一世の心臓(Twitter)

 だが、今回の心臓輸送をめぐり、現在、ブラジル、ポルトガル両国内で批判的な声があがっている。ひとつは歴史学者のヴァルディネーレ・アンビエル氏が指摘する、「王室の遺品を政治利用しようとしている。実際に150周年の際にそれは起きた」とする声だ。
 もうひとつは、保管をめぐる方法に関する懸念だ。今回の臓器は200年近く昔のものということもあり、極めて脆弱で、外界に出すことで損なわれる危険性がある。ポルトガルではポルトの市議会が承認する前に医学会が懸念を示していた。
 また、アンビエル氏が指摘するように「独立記念館のペドロ皇帝の遺体の保管状況は極めてお粗末だ。そこを最後に訪れたのはパンデミックの起こる少し前だったが、廟の中には強い湿気があった」との指摘もある。
 心臓は独立記念日の翌日の9月8日にポルトガルに返されることとなる。ドン・ペドロ一世は9歳だった1807年に、ナポレオンのポルトガル侵攻を恐れた父ジョアン6世と共にリオに移住。ジョアン6世がポルトガル国王になるために帰国した際、リオに残り、1822年の独立宣言後に、立憲君主国のブラジル帝国の初代皇帝となっている。
 1831年にブラジル皇帝位をペドロ2世に委ねて退き、ポルトガル本国に帰国。弟ミゲルとのポルトガル内戦を勝ってペドロ4世を名乗ったが、1834年にリスボンの宮殿で病死した。

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