8月21日から巡回上映会開始=映画『オキナワ サントス』

案内に来社した一行
案内に来社した一行

 サントス強制退去事件を描いたドキュメンタリー映画『オキナワ サントス』(松林要樹監督制作作品)のブラジルでの上映会が、8月21日午後2時から沖縄県人会本部会館(Rua Tomas de Lima, 72 Liberdade)で行われる。本部会館での上映を皮切りに各支部会館でも巡回上映する。上映会を共催する沖縄県人会・沖縄文化センター(高良律正(りつただ)会長)、沖縄県人移民研究塾(宮城あきら代表)一行が8日、編集部を訪れ、「歴史の闇に置き去りにされてきたサントス事件を今回の上映を通じて知ってほしい」と呼びかけた。入場協力券30レアル。

 サントス強制退去事件とは、第2次世界大戦中の1943年7月8日、ブラジル政府がサントス沿岸一帯在住の日本移民585家族約6500人(うち、6割以上が沖縄県人移民)に、24時間以内の強制退去命令を出し、当時の日系社会に大きな混乱を招いた事件を指す。同作では強制退去命令を実際に受けた人々の貴重な証言をまとめた。
 大戦中、日本とブラジルは敵国同士となり、サントスに住む日本人移民たちは「スパイ通報」で無実の罪を着せられ、住み慣れたサントスの街を着の身着のままで追い払われ、財産を失い、苦渋の生活を余儀なくされた。
 サントス強制退去事件は発生から約80年が経過した今日まで一般にはほとんど知られず、歴史の暗部に置き去りにされたままの状態が続いてきた。
 同作は松林監督がブラジル取材中に強制退去者名簿を偶然発見したことをきっかけに制作を開始。沖縄県人会の協力を得て退去命令を受けた生存者の証言を収集した。映画制作と並行して、沖縄県人移民研究塾が証言収集活動を進め、同塾機関誌『群星(むりぶし)』で証言記録を発表。4月にはサントス強制退去事件を特集した『群星別冊』を刊行した。
 サントス強制退去事件に関して沖縄県人会は、2019年12月にブラジル政府に対して、第2次大戦前後に起きた日本移民迫害に関する「損害賠償を伴わない謝罪要求」を行っているが、現在まで政府側からの具体的な回答は行われていない。
 巡回上映会は今年3~4月頃に実施される予定だったが、コロナ禍で延期となっていた。第1回目の上映会には日本在住の松林監督も招待される予定。上映後に松林監督の講演が行われるほか、ブラジル在住の国吉リュウジさん(27)が伊佐浜(いさはま)移民の澤岻安信(たくし・あんしん)氏作詞の『ふるさとの思い』を唄うなど琉球民謡が披露される。
 翌週8月28日にはサントス日本人会で第2回上映会が行われる。今後、沖縄県人会の各支部での上映のほか、各地日系団体での周知活動も企画されている。なお、各会場では、ブラジル政府に対する謝罪要求の署名運動も行われる。
 編集部には高良会長、島袋栄喜元会長、上原ミルトン定雄上映実行委員長、高安宏治(ひろはる)同実行委員、宮城研究塾代表が訪れた。高良会長は「ブラジル社会にサントス事件のことが広く知られるのはとても大切なこと」と述べ、島袋元会長は「暗い歴史であるサントス事件がなぜかコロニアで知られていない。当事者が高齢化する中で若い世代に伝えていくためにも今回の巡回上映はとても重要」と語った。上原実行委員長は「突然の24時間以内の強制退去命令は、大きなショックだったと思う」と当時の人々の心情を慮った。
 高安実行委員は「海外に移民した日本人は戦争のために多くの人がその犠牲になった。二度と戦争をやってはいけない」と強調。宮城代表は「サントス事件では6500人もの無実の人たちが罪を着せられた。歴史に埋もれたこの事件を今回の巡回上映会と『群星別冊』を通じて多くの人に知ってほしいという切実な思いがある」と上映会への思いを語った。
 第3回目以降の今後の巡回上映会の詳細については、決定し次第紙面で告知していく。

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