南米チリでは過去15年にわたり深刻な干ばつが続き、水資源の枯渇が深刻化している。この事態に対処すべく、全国の理美容サロンから集められた人毛を織り込んだ堆肥化可能なマットを農地に敷設する取り組みが進められている。研究によれば、人毛マットは土壌の水分蒸発を約71％抑制し、灌漑用水の使用量を最大48％削減できるという。人毛に含まれる栄養素が土壌の改善を促し、作物の成長および収量を30％以上向上させる効果も確認されていると8日付のG1（1）が報じた。
南米西岸に位置するチリは南北に細長く、地理的多様性が水資源の地域的不均衡を生み出している。特に北部のアタカマ砂漠周辺では年間降水量が極めて少なく、水資源の地域的偏在が顕著だ。こうした自然条件に加え、気候変動の影響で降雨パターンの変化や氷河の縮小が進んでおり、農業・生活用水の確保が年々困難になっている。（2）
このような深刻な水資源問題に対処するため、創造的な手法を模索する動きも出てきている。その一つが、毛髪を活用した環境資材の普及を目指す公益財団「マター・オブ・トラスト・チリ」による取り組みだ。2020年に設立された同団体は、環境寄付法に基づきチリ政府の認定を受けている。廃棄物の創造的な活用を通じて、環境保全と再生を推進することを目的としており、全国約350カ所の理美容サロンから回収した毛髪を原料として活用している。
収集された毛髪は、機械的な織布工程を経て、農業用のマルチング資材として用いられる堆肥化可能なマットへと加工される。この資材は農地の表面に敷設することで、蒸発を抑え、土壌の保水性を高める効果があるとされる。
同団体の代表を務めるマッティア・カレニーニ氏によれば、同マットを使用することで土壌の直射日光による水分損失が大幅に減少し、農業における灌漑の必要性も抑制されるという。また毛髪に含まれる窒素、カルシウム、硫黄といった栄養素が土壌に供給され、農地の地力向上にも寄与する。
実際にこの取り組みを導入している農家も存在する。チリ北部アンタファガスタ州タルタルにてレモンを栽培する農業従事者マリア・サラザール氏は、農地全体に人毛マットを敷設し、「毛髪マットは、私たちのような厳しい気候条件に直面している農業者にとって、極めて有益な手段です。地表に影を作ることで、湿度を保持し、太陽光による水分の蒸発を防いでくれます」と話した。
こうした民間主導の取り組みに加えて、チリ政府も水資源問題に対して法制度や政策面からの対処を進めている。1981年に制定された水法は2005年に改正され、現在は水資源の持続可能な利用に重点が置かれている。さらに、水資源総局（DGA）を中心に、効率的な灌漑、水の再利用、貯水インフラの整備などが推進されている。
だが、同国では水資源が地域間・階層間で不平等に分配されており、特に先住民コミュニティと鉱業会社との間での水の利用権を巡る対立が続いている。こうした背景には、水の私有化政策によって一部の企業が広範な水利権を保有しているという構造的問題もあり、水利用の公平性が問われている。