
パラナ州のブラジル農業研究公社(Embrapa)で勤務するマリアンジェラ・ウングリア氏(67)が、2024年の「世界食料賞(World Food Prize)」を受賞した。これは「農業のノーベル賞」とも称される国際的に権威ある賞であり、同氏はブラジル人女性として初の受賞者となった。授賞式は5月13日、米国アイオワ州デモインのワールド・フード・プライズ財団本部で行われた。14日付G1サイト(1)やBBCブラジル(2)が報じた。
サンパウロ州イタペチニンガで育ち、母親と祖父母のもとで幼少期を過ごした彼女は、幼い頃から科学への情熱を抱いていた。原点として薬学教師だった祖母を挙げ、「彼女は常に私のインスピレーションでした」と語る。
サンパウロ大学で農業工学を学び、土壌科学で修士・博士号を取得。米国やスペインでも研究を重ねた。1991年からはエンブラパ・ソジャ(大豆部門)の研究員として、持続可能な農業技術の開発に従事してきた。
彼女の代表的な功績は、化学肥料に代わる「バイオインプット(生物資材)」を用いた農業技術の確立である。微生物を利用した種子処理法や肥料代替技術により、ブラジル国内で4千万ヘクタール以上の農地に適用され、年間約250億ドル(約1兆2750億円)のコスト削減を実現。この実績により「ブラジル微生物学の母」とも呼ばれている。
彼女が長年研究してきた「接種剤(イノキュラント)」は、リゾビウムなどの微生物が植物と共生し、窒素固定を通じて栄養吸収を助ける。化学肥料なしでも高収量が期待でき、大豆や豆類の生産で著しい成果を上げている。Azospirillum brasilenseという細菌を商業化した初の研究者でもあり、その活用により収穫量を倍増させた。
彼女は「これらの善玉菌がなければブラジルが世界最大の大豆輸出国になれなかった」と断言する。生物資材は国内生産が可能なため、国際情勢の影響を受けにくく、特に化学肥料の85%を輸入に依存するブラジルにとって戦略的にも重要である。
受賞に際し、「これはブラジルの持続可能性に対するポジティブなイメージを発信するもので、自然を破壊する国ではないことを示す」と語った。「未来はないと言われても信じ続けました」と、かつての強い抵抗を振り返った。
女性研究者としての道のりも平坦ではなかった。出産や育児と研究の両立に課題があるとし、「母になることで研究の機会を失ってはならない」と制度改革の必要性を訴えた。今後は研究支援や女性研究者・ジャーナリスト向けの財団設立も視野に入れている。
世界食料賞は、1970年にノーベル平和賞を受賞したノーマン・E・ボーローグ氏が設立したもので、世界の食料問題に顕著な貢献をした個人・団体に贈られる。受賞者には50万ドルと記念トロフィーが授与される。ブラジルからの受賞は今回で4度目となる。