マイゾウ・メーノス(まあーまあー)の世界ブラジル(25)=サンパウロ 梅津久

第18話―政治家と国民 (その1)

 政治家の間でも、この「マイゾウ・メーノス」の世界は激しい。アマゾナス州には有力な政治家が数人いるが、ジルベルト・メストリーノ、アマゾニーノ・メンデス、エドワルド・ブラガとこの三人の関係は我々外部の者が見ていると非常にいいかげんである。
 ジルベルトが州知事の時、アマゾニーノはセナドール(上院議員)であったが1992年に市長選挙のため、上院議員の席を副のジベルト・ミランダに譲った。連邦上院議員から地方の市長にとは、ちょっと考えられない動きだが、よほど地元の長には旨味があるのだろう。
 マナウスに戻り、元の同じ政党の長老であったジルベルト・メストリーノの押す立候補者と激しい選挙戦を展開し、アマゾニーノが当選した。
 2年後の1994年、今度は州知事選挙でアマゾニーノは市長を副のエドワルド・ブラガに譲り、知事に立候補した。市より州のほうが動くお金の量が違う。そしてこれまた当選を果たした。
 1996年の市長選挙では、ジルベルト・メストリーノの押すセラフィン候補を破り、僚友のマノエル・リベイロを立て当選させた。
 1998年の州知事選挙には、再選を狙ったアマゾニーノ・メンデスと、4年前に市長の席を譲った自分の子分でもあった、エドワルド・ブラガが激しい選挙戦を繰り返し、小差でアマゾニーノが再選をはたした。
 このように「マイゾウ・メーノスの」世界ブラジルの政界には師弟、僚友の関係は存在しないようである。
 こんなに政党を変え、昔の同僚は今日の宿敵となっていたら、日本では政治生命がなくなってしまうが、ここブラジルでは普通である。
 元大統領のイタマール・フランコ(現ミナス・ジライス州知事)は一方的に連邦に対して州のモラトリアム(借金支払い不能、すなわち破産)を宣言して、彼の大統領時代レアルプランでインフレ撲滅を計った現大統領のフェルナンド・ヘンリッケ・デ・カルドーゾと批判合戦を繰り広げた。
 サンパウロ州では元市長のパウロ・マルフは、州知事に立候補するため市長の席を譲り、次の市長選挙で当選させた自分の育ての子分セルソ・ピッタ現市長と、お互いの汚職の暴露合戦。
 政治家同士の醜い争いはいたるところで発生している。日本の様に師弟関係、政党派閥関係が厳格に守られ、引き継がれている政治家の世界ではこのようなことはとても考えられないことである。
 反面、日本の政治家には付き添いが一杯で、気さくに寄り付き、挨拶など出来ない。せいぜい選挙宣伝の期間はにこやかに政治家のほうから握手を求めて来るくらいだ。
 ブラジルの政治家は、街の中では気さくな兄貴、叔父さんという印象で、握手が出来、気軽に話ができる。レストランで会えば、手を振って「ヤー」という感じ。時には「オー・メウ・アミーゴ(やー 私の親友よ)」と言っては例のブラジル式ハグをする。この様に親近感はあるが、全て利用主義、売名から発生するしぐさなのである。
 政治といえば、マナウス・フリーゾーン監督庁(SUFRAMA)の建物が一夜にして全焼したのも、ブラジルの「マイゾウ・メーノス」の結果である。
 これは、「マフィア・ド・アスーカル(砂糖汚職)」といわれ、1993年から1994年に発覚した。ブラジル南部のサン・ジョゼ・リオプレット市の砂糖精製会社とSUFRAMAの幹部が結託し、マナウス・フリーゾーン(以下ZFM)の税制恩典を利用しようと、多量のノッタ・フィスカル(以下N/F、売り上げ伝票)をZFMの幽霊会社に売り上げを立てたように細工することによって税金逃れをして利益を得た汚職だ。SUFRAMAの4幹部が免職になった事件である。
 これには当然、SUFRAMAのだれかが関与しなければ出来ないことである。それはN/FがSUFRAMAで間違いなくZFMに入ったという証明が取られなければ、税制恩典が発生しないからである。
 これはアマゾン地域の人口に合わない砂糖がZFMに入っているという疑問から発覚した。実際どれだけの幹部が関与したのか、その証拠書類が山積みとなっていたSUFRAMAの建物が1994年5月の明け方全焼してしまったのでわからなくなってしまった。
 書類隠滅放火の疑いが強かったが結局は迷宮入りとなってしまい、1999年に建物は改築された。
 同じSUFRAMAの汚職では、航空券の大量発行問題も大きい。これはSUFRAMAの職員が職務の理由で家族、親戚、知人宛てに多量に航空券を購入した職権乱用暴露事件である。
 また「カロリーニヨ・ベルデ」(Colarinho Verde、緑色汚職)もあった。「Colarinho」は、ワイシャツのカラー、コップ中のビールの泡という意味であるが、86年に発覚した。ZFMの架空の企業を経由して輸入、輸入税の恩典を利用。製品N/F、輸送用N/F、輸入許可書を偽造。当時の輸入枠制を利用し、余分枠を買い取り、それを利用していた。5億3千ドルを国庫から盗み取ったことになる。
 それに、セアザ港のSUFRAMA管理監督事務所の改築も80万ドルの工事に対し400万ドル支払らわれた。またSUFRAMA事務所前の遊歩道の工事も1500万ドルの工事であったが、実際いくら支払われたかわからない。(つづく)

 

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