第17話 薬漬けのブラジル人
ブラジルの街を歩いて非常に良く見かけるのがファルマッシア(薬局)、ドゥルガリア(薬品店)である。貧しい地方の都市にいくほど多い。ここマナウスの街は特にひどい。住宅地の一角にある私の家の道一つ隔てた商店街の四つ角の内、3つの角にそれぞれ一つずつ、100メートル四方にさらに4店となんと7店もあるのである。どうしてこんなに薬局が必要なのか?
具合が悪い、熱がある、痛い、ケガをしたといって、病院、診療所に行っても、医者はほとんど問診だけで、医者だけが解読できるミミズのはったような読めない字で薬の名前を書かれた処方箋を渡すだけだ。後は自分で薬局に行って薬を買い、自分で処方しなければならない。それが、いつも3種類以上の薬の名前が列記される、解熱剤、痛み止め、塗り薬など、また抗生物質も簡単に処方される。病気の症状の説明はなく、薬の飲み方だけは丁寧に説明してくれる。(現在は間違いを防ぐために、法律で処方箋は手書きでなくコンピューター文字で記載し渡さなければならなくなっている。また抗生物質剤の処方箋は2部渡され、1部は薬局が保管し、受け取り時に種々の個人データを保険省のシステムに登録し、薬品による健康被害を防ぐようになっている)
ブラジル人はとにかく頭が痛い、気分が悪いといっては、すぐに医者に行き薬を飲む。そのため、会社には医務室の設置と常勤看護婦の雇用が義務付けられており、さらに従業員数が一定の人数を超えると、労務医との契約、雇用の義務が発生し、これがまた会社にとっては負担となってくる。
医務室の衛生局の認可を取るため一定基準を満たさなければならない。医療ごみの処理契約などの問題も出てくる。それにある程度の医療設備や医薬品や薬まで用意しなければならなくなる。
またその購入する薬の量が途方もなく多く、私はいつも購入依頼書が目の前に提出され、承認の署名をするたび、担当者に再考を促すことが度々ある。「会社は従業員の健康を援助する福祉団体ではない」と云ったものです。それでも従業員は頻繁に医務室に出入りし、看護婦さんに頼み込んで薬を手に入れているようでした。
さらに従業員が薬の購入を容易にするため、会社は薬局と協定して、従業員への薬の前借り制度があるので簡単に薬を買ってしまう。ひどい者になると、給与の半分ほどを薬代に差し引かれ、生活に困り、給与の前借りを依頼してくる者まで出てくる始末。