マイゾウ・メーノス(まあーまあー)の世界ブラジル(22)=サンパウロ 梅津久

第15話―結婚と離婚

 ブラジルでは年齢、男女、宗教、思想その他の要因による雇用の差別が禁止されているので、採用面接で差別に関係する様な質問は出来ないのだが、履歴書や求職申請書などを見て独身と思って採用した女性が、後で実は子供が2~3人いたという経験は幾度もした。
 また、ブラジルでは一種の習慣となっている会社での「母の日」の昼食会。食堂に行くと「えー、あの子が?えー、この子も?」、他の職場の若い女子従業員が「母の席」に笑顔で座っているではないか。なんか裏切られた思いで同じ席に座って「パラベンス、ジア ダス マエインス(母の日おめでとう)」と握手を交わした経験がある。
 サンパウロと比べ、特にマナウスでは、若年15歳から18歳位で子供を産んでいる子(とても女性とは云えない)がごく近くに何人もいる。「旦那さんは?」と聞くと、平気で「いません、別れました」という返事が遠慮する気配もなく返ってくる。
 「どうして?」と訊くと、恥じらいもなく「●●で別れました」、「●●で出て行きました」と話してくれる。さすが“マイゾウ・メーノス”の世界か。
 また、会社の小切手にサインをしていた時のことであるが、給料日前日には特に小切手が多くなってくる。それは男子従業員が離婚した元妻の子供の養育費を払うために、会社が給料から強制的に決められた金額を元妻の名義の小切手で支払うためである。「あいつか、こいつか、えー、こいつ二人も元妻がいるのか、うーん」、「こんなに差し引かれたら、今の妻と子供の生活費は?」と一人考えながら小切手にサインしていたものである。
 ブラジルでの結婚手続きは日本とは非常に違う。これは恋愛を少年の年頃から自由に出来、頻繁に相手を変えることが社会的に古くから許容されていることから生じていると思われる。
 結婚するには、まず官報に誰が誰と結婚するということを公示して、決められた期間に訴えがなければ、婚姻資格証明書が発行され、カルトーリオ(登記所)で証人(仲人)を伴って結婚登記を済ませる。その証明書を持って、各宗教に則った結婚式となる。これは重婚を防止するためだ。それほど嘘つき、スケベ、浮気が多いのか?
 結婚にも二つの方法がある。一つは財産を分離したままの結婚(セパラサゥン・トータル・ディ・ベンス)、もう一方は財産を共有する結婚(コムニョォン ウニベルサル・ディ・ベンス)である。妻が夫を信頼していない場合は、財産分離式を選ぶ。妻は自分の所有物と相続分だけを自分の名義にする手続きをカルトーリオで登録する。先々の利害関係が見え見えである。
 ブラジルで最も一般的な宗教であるカトリックは離婚、避妊を許していない。しかし法律では、決められた年数の別居生活後に離婚が出来る。
 避妊に関してはカトリックのローマ法王が頑として許さないため、避妊の法律、堕胎の法律化は出来ていない。ただマスメディアを通して避妊の運動は大きく展開されている。
 テレビでは、はっきりとコンドームを見せて、どう使うか説明があるし、街頭では仮想の男性性器に正規のコンドームを正しくし使用出来たら賞品としてコンドームを与えるといった企画まで模様されている。
 カーニバルの時期になると、政府がカーニバルの会場だけでなく、企業、学校でもコンドームの無料配布を大々的に行う。なんかセックスをしなさいと云っているようで、とても日本人には想像もできない事である。
 また離婚も驚く程多く、例えば、私の働いていた会社では240名の男性従業員がいるが約8パーセントにあたる18名が離婚しており、一般の調査だと結婚する4組に1組は離婚しているそうです。
 離婚となると、先ほど述べたように男性は給料の20~30%が「ペンソン」と呼ばれる養育費や生活援助費として元妻に強制的に支払われることになる。離婚は協議離婚がなく、全て裁判離婚で、そこで「ペンソン」の金額も決められる。
 この養育費は子供が18歳になるまで、大学に行けば最高24歳まで支払わなければならない。支払いを怠れば、元妻から裁判所に訴えられ、警察に強制逮捕され留置所に入れられる。取り立ては厳しく、従業員が支払い義務を隠していて警察が会社に来たことも幾度もあり、会社が良く説明して、逮捕されずに済んだ。
 裁判で離婚が成立すると養育費支払い判決書は会社に直接届けられ、給料から強制的に差し引くことになる。この養育費は子供に付いてまわるので、元妻は再婚しても受け取れることになっている。断然女性が有利な立場にある。
 とにかく恋愛、若年での結婚が多く、それだけ離婚も多い。「熱しやすく冷めやすい」、「飽きやすい」、「自分かって」という性格の現れである。これも“マイゾウ・メーノス”の世界ブラジルである。

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