《寄稿》マルセロが遺したもの=奥原マリオ純

秀島マルセロさんと西尾ロベルトさん

 秀島マルセロさんはブラジル日本文化福祉協会(文協)の次期会長として将来を嘱望されていた若きリーダーでした。日系ブラジル人の間で新たなリーダーシップの土壌を築く先駆けとなり、1997年には世代間の対立を和らげるため、文協に「青年委員会」を立ち上げました。対話を重視する文化を文協にもたらしたのです。
 さらに10年後には次世代の日系ブラジル人起業家たちを巻き込んだ「青年委員会」の新体制を整え、未来の文協を担う人材の育成に尽力しました。しかし、2023年、53歳という若さで急逝。惜しくも、自らが描いていた世代交代の実現を見届けることはできませんでした。それでも、彼の想いは組織内にしっかりと根を下ろしていました。
 特に当時の文協副会長だった西尾ロベルト氏(現会長)は、マルセロの考えを深く理解し、青年世代の動きをそばで見守っていた人物です。
 今年4月26日、83歳の西尾氏が新たに文協の会長に就任しました。年齢による偏見や世代の壁を越えてのことでした。パラナ州アサイ市出身の西尾氏は弁護士であり、クニト・ミヤサカ財団の会長も務めています。かつては南米銀行で長年活躍し、取締役にまで上り詰めた経歴を持ち、日系社会への貢献度から見ても、まさに文協会長にふさわしい人物といえるでしょう。
 近年、ブラジルでも80代を超えてなお自立し、活発に活動する人々の姿が目立つようになってきました。カエターノ・ヴェローゾ、ポール・マッカートニー、スタジオジブリの宮崎駿など、年齢を重ねてもなお、社会に強い影響を与え続ける存在は世界中にいます。彼らのように、高齢者の多くは、もはや生産性や競争ではなく、自分の足跡や精神を次の世代に引き継ぐことに価値を見出しているようです。
 日系社会では昔から「年長者を敬う」という価値観が根強くあり、それが組織運営の柱のひとつでもあります。西尾氏もその精神のもとに育ち、今なお社会に貢献する気力を保っています。チームワークとボランティアの力を大切にし、若い頃は野球に打ち込み、今はゴルフを楽しむというアクティブな一面もあります。
 また、マルセロと同様に、西尾氏もカリスマ性があり、人に対して思いやりのある、魅力的な人物です。若者との対話を大切にし、SNSでも発信を行うなど、現代的な感覚も持ち合わせています。きっとこれからの文協を、より人間味のある、開かれた、そして未来に備えた組織へと導いてくれることでしょう。次世代への移行も、きっと対話と理解をもって進められていくはずです。
 時代の巡り合わせでしょうか。新しい風を求めていた若者が志半ばで去り、その夢を叶えるべく、年長者がバトンを受け取ったのです。秀島マルセロという存在は、これからも記憶に残り続けるでしょう。彼の志は今も新しい会長の中で生きています。文協の未来は、安心して託せる手の中にあるのです。

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