《記者コラム》日本人の100人に一人は海外在住=岸田首相、ぜひワーホリ協定を

海外在留邦人数推計推移(外務省の「海外在留邦人数調査統計」)

海外在留邦人はどれだけいるか?

 ひと頃「日本人の若者は最近、外国留学したがらない」「企業の中で海外駐在希望者が減っている」というような報道をよく読んだが、ここ数年は逆に「円安になり、すし職人など手に職をつけて外国で稼ぐ若者が増えた」「海外脱出組が増えた」というSNSの流行キーワードも見るようになった。ならば、海外在留邦人や永住者はどうなっているのか?
 「政府統計の総合窓口」サイトにある海外在留邦人数調査統計2023年10月1日版(2)によれば、海外在留邦人は129万3565人もいる。ただし、これは全員が永住者ではない。「永住者」と「長期滞在者」の合計だ。
 この調査にでてくる「永住者」とは、在留国等から永住権を認められており、生活の拠点を日本から海外へ移した邦人、いわば移住者だ。
 「長期滞在者」とは、駐在員や留学、研究者など3カ月以上の海外在留者のうち、海外での生活は一時的なもので、いずれ日本に戻るつもりの邦人だ。
 詳しく見ると「長期滞在者」は71万8838人、前年より4%の減少で、在留邦人全体の半分以上、55%を占めている。続いて、移住先国の永住権を持った人「永住者」は57万4727人、前年に比べて3%の増加となっている。
 この「永住者」の大半はそのまま現地国に住み続ける可能性が高く、事実上の「現代の日本人移民」といえる人たちだ。この57万人が配偶者を得て、子孫を増やしていく。だから、これは「未来の日系人候補者」の数とも言える。

日本の県人口との比較

 129万人という数字は、総務省統計局の2023年県別人口によれば33位の大分県の120万人より多い。一番少ない鳥取県の55万人の2倍以上だ。
 少なくなったと言いながらも、単純計算では日本人の100人に1人は海外で生活している。「海外組」は実はそんなに例外的なことではない。そして「永住者数」だけ見ると実は、右肩上がりになっている。
 海外在留邦人の総数としては、1989年に58万人以後、右肩上がりにどんどん増え続け、2019年の141万人をピークにして、コロナ・パンデミックの影響をうけて減少した。
 なぜパンデミックの影響だとわかるかといえば、永住者は増え続けていて、長期滞在者だけが減っているからだ。パンデミックで留学がなくなった分減り、2023年10月時点で129万人まで減ったという流れだ。
 逆に言えば、永住者はそれと関係なく増え続けている。パンデミックが終わった今、また海外在留邦人は増えていくと予想できそうだ。
 129万人という数字は大きいようにも感じるが、実は戦前はその3倍もの日本人が海外在住していた。【図2】戦前の在外邦人数の推移(3)にある通り、戦前の大半は朝鮮、台湾、樺太、関東州・満州で、それだけで250万人もいた。
 今はむしろ、ちょうど100年前の1920年代とほぼ一緒ぐらいだ。同年に行われた日本の国勢調査によれば、当時の日本の人口は5596万3053人と、現在の約半分だ。つまり、人口比率で考えれば、海外移住していた割合は現在の2倍とはるかに高かった。本来、日本人はもっと海外で暮らしていてもおかしくない。

【図2】戦前の在外邦人数の推移(上:人数、下:構成割合)〈戦前の在外邦人数統計 – 国立社会保障・人口問題研究所〉

海外在留邦人が多い国のランキング1位は米国

 では、海外在留邦人が多い国はどこだろうか。言い換えれば、日本人にとって一番人気が高い国はどこか。1番目は文句なしにアメリカで、約41万5千人もいる。実際、すごい数だ。50年後、100年後にはすごい数の日系人が誕生し、現在こそブラジルが世界の日系人総数500万人の過半数を占めているが、いずれ米国に抜かれるだろう。
 2番目は日本のお隣の中国、約10万2千人もいる。3番目は、ワーキングホリデービザ(以下、ワーホリ)が使えて日本人になじみ深いオーストラリア。2位とほぼ同じ約10万人もいる。
 4番目はカナダで7万5千人、ここもワーホリが使える。5番目はタイで7万2千人、6番目ははやりワーホリが使える英国で6万5千人、7番目にようやくブラジルが出てきて、約4万7千人とある。正確には4万6902人だ。
 5月にブラジル訪問する予定の岸田文雄首相には、ぜひワーホリ協定をブラジルと結んでもらい、若い日本人がブラジルに来やすくしてもらいたいものだ。南米ではすでにアルゼンチン、チリとは締結済みであり、次はブラジルとお願いしたい。

米国ロサンゼルス在住の桃井かおりさんのインスタに登場したYOSHIKIさん(1)

世界で日本人が一番多い都市はどこか?

 都市別で海外在留邦人が多いところを見ていくと、1位は米国西海岸カリフォルニア州の「ロサンゼルス都市圏」だ。在留邦人全体の5・0%(6万4457人)も住んでいる。映画の都ハリウッドがある関係もあり、ここには日本の芸能人も多く住む。
 サイト《海外在住だった!スゴい芸能人ランキング(1~10位)》(4)、サイト《海外へ移住、日本と2重生活をしている芸能人30人以上を紹介》(5)などによれば、矢沢永吉さん、氷室京介さん、真田広之さん、渡辺謙さん、桃井かおりさん、YOSHIKIさん(6)ら枚挙にいとまがない。
 ロサンゼルスで日本語情報誌を発行している人と以前話していて驚いたが、「在留届を出しているのは6万人だが、実際に住んでいる人は20万人ぐらいいてもおかしくない」とのことだった。
 アメリカの場合は、日本国籍を維持できる「永住権」(グリーンカード)と、アメリカ国籍に帰化する「市民権」の2種類があり、ロスには市民権を取った日本人もたくさん住んでいるのだろう。市民権をとると、日本国籍を離脱しなくてはならないので、日本の在外邦人統計から外れることなる。たとえ国籍はアメリカでも、アイデンティティは日本人のままだから、日本人コミュニティにも所属する人は多いだろう。
 コラム子が生まれた静岡県沼津市の人口は20万人弱だ。海外とはいえ、一つの地域に20万人も日本人がいれば、いろいろな日本語ビジネスが可能であり、本当にうらやましい限りだ。
 そもそもブラジルは遠すぎる。10時間以上もかかる飛行機を2回も乗らないと日本にたどり着かない。便によっては計30時間近くも飛行機に乗っている。しかも途中の乗り換えでは4時間待ち、下手したら6時間もざらだ。
 だが米国なら1回寝ている間に日本に着いてしまう。近い分、住み心地はいいだろう。

2位バンコク、3位ニューヨーク、4位上海

 2位はタイの「バンコク」で4・0%(5万1407人)、3位はまたまたアメリカの「ニューヨーク都市圏」に2・9%(3万7414人)もいる。ニューヨークに住んでいる芸能人としては大江千里さんを始め、久保田利伸さん、諸星和己さんなども。
 4位が中国の「上海」に2・9%(3万7315人)、5位がイギリスの「大ロンドン市」に2・5%(3万2487人)。ロンドンに住む芸能人としては布袋寅泰さん今井美樹さん夫婦、葉加瀬太郎さん髙田万由子さん夫婦、本木雅弘さん内田也哉子さん夫婦、宇多田ヒカルさんなど。
 この上位5都市圏だけで在留邦人の17・2%を占めている。
 6位は「シンガポール」2・4%(3万1366人)、7位はオーストラリアの「シドニー都市圏」2・3%(3万0324人)、8位はカナダの「バンクーバー都市圏」2・2%(2万8305人)、9位は「ホノルル」1・8%(2万3349人)だ。ちなみにハワイに住む芸能人には、つんくさん、伊東美咲さんらがいる。
 10位は「香港」1・8%(2万2930人)で、これら10都市(圏)で全体の27・8を占めている。ちなみに聖市は18位で1万1840人、不思議なことに前年比+7・6%でかなり増えている。
 これは、総領事館などの各地の在外公館に「在留届」を出した数の総計なので、実際の数とは異なる。住んでいても在留届を出していない人がいるからだ。

フィリピン、アメリカ、ブラジルを比較した在留邦人の男女別年齢構成

ブラジルには本当に4万7千人も邦人がいるか

 ブラジルのデータだけ詳しくみると、在留邦人は4万6902人で、前年比マイナス1・2%。うち主に駐在員や留学生などが含まれる長期滞在者は4154人、移住者を中心とする永住者は4万2748人だ。
 ここから推測できる長期滞在者の内訳としては、駐在員本人は1千人~1500人で、その家族や留学生、旅行者を入れると4千人あまりになる感じではないか。
 永住者は移住者が中心のはずなので、正直言って4万2748人は多すぎるのではと、首をかしげる。そんなにいるなら、間違いなく邦字紙読者はもっと多いはずだ。
 統計で見る日本サイトe―Stat(7)の海外在留邦人数調査の2002年時点でブラジルに7万2343人いることになっていた。そこから20年余りで3万人弱(約41%)しか減っていない。
 厚生労働科学研究成果データベース(8)によれば、2015年時点のフィリピン、アメリカ、ブラジルを比較した在留邦人の男女別年齢構成を見ると、ブラジルだけ男女ともに60歳以上が圧倒的に多い。60代が約22%、70代が30%、80代以上が17%という感じで、ほぼ7割を占める。これは新来移民がほぼ途絶えた状態の中で、戦後移民がそれだけ高齢化したことを意味する。
 日本人男性の平均寿命は81歳であり、その時点から9年たった現在、この表の80歳以上(17%)は大半が亡くなり、70代(30%)以上で生き残っているのは半分以下のはずだ。おおざっぱに考えてこの10年だけで32%以上、3人に一人が亡くなった。
 というか、身の回りの一世の減り方は体感的にはもっと減っている。この20年で半分以下どころか7、8割以上、コミュニティという意味では壊滅的なほどに減っていると痛感する。
 それが海外在留邦人統計では今も永住者が4万3千人近くいることになっている。これは、在留届を出したまま亡くなって、子孫が死亡届を総領事館に出していないからではないか。亡くなったのに、書類上では生きていることになっている人がたくさんいると推測される。
 ここで一つ提案だが、総領事館の在留届には生年月日があるだろうから、2016年10月6日付BBCニュース《人間の寿命の限界は115歳》(9)などを参考にして、計算上で120歳を超えた人は自動的に消去していくようにしたら大分減るのではないか。
 これは日本人移民の大半を吸収したアメリカ大陸全域に言えることで、ブラジルの次に移民が多く入った北米でも同様の処理をすれば、かなり現実に近い数字になるのではないか。
 とっくに亡くなっているのに、祖国の統計上は生きていることにされたら、草葉の陰にいる本人もいたたまれないのではないだろうか。(深)

(1)https://www.instagram.com/p/CxWlaNHJyvv/

(2)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100436737.pdf

(3)https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/21770303.pdf

(4)https://rankingoo.net/articles/owarai/02371a

(5)https://rakuenpark.com/ijyu-tarent/

(6)https://www.instagram.com/p/CxWlaNHJyvv/

(7)https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003290347

(8)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2015/151011/201501008A/201501008A0006.pdf

(9)https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-37571028

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