小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=60

 ときに、先日の新聞だが、ブラジル東北地方一帯に跋扈していたランピオン一味が全滅したと報ぜられている。セルジッぺ州のサン・フランシスコ河支流沿岸のアンジッコ洞窟内で軍警四〇数名と激戦の末のことという。盗賊扱いされたランピオンではあるが、反面、政治的な手腕に長け、地方の義賊、英雄視されたため、彼を擁護する連中も多くいて、なかなか逮捕できなかった。そのうちにサンパウロ州も荒らされるのじゃないかと噂されていたが、これでひとまず安心だ。
 我々には日支事変の拡大によって、政府は日本移民に警戒の色を強めている。外国語新聞発行の取締り規制を設けたり、日本語学校閉鎖の噂も流れていて、住みにくい時勢になってきた。
 御自愛を祈る。
  律子君へ
  一九三八年×月×日
隆夫より
 
 
第五章
 
開 墾
 
 シャンテブレー耕地での苦難の一年間、添島植民地で二年の契約農をすませた田倉一家は、次に棉作りに移った。棉に景気の出はじめたころで、肥沃地を選んでは栽培し、土地が痩せるとまた新開地へ移るといった、いわゆる略奪農法を繰り返した。
 浩二は逞しい青年となり、一家の蓄えもできたので、カフェランディア管轄から二〇〇キロ西方のグヮララペス地区に三〇アルケーレスの土地を購入した。さしあたり五アルケーレスを開墾することになり、浩二は現地へ出かけることにした。いずれ山伐り人夫を雇わなければならないが、彼らに風雨をしのぐ掘っ立て小屋ぐらい造りたかったし、フォイセ(柄の長い鉈鎌)や、斧の調達もしておきたかった。もともと器用な浩二はそういう仕事は苦にならなかった。むしろ楽しかった。
 斧の柄は売り物もあったが、山林から自分好みの木質と太さのものを探し出すのが愛着があっていい。斧や鍬の柄となる木材は軽くて弾力のあるものを選ぶ。この地方ではサップーバ、マミカ、その他幾種かの灌木が良質とされていた。沢山の樹木の中からそうした適材を見つけるのは時間がかかる。けれど浩二は宝物を探し出すかのように山の中を渉猟して歩くのが好きだった。

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