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《記者コラム》逆行した政策で軋むブラジル経済=基本金利20%、1ドル8レアル説まで

12カ月の累積インフレが11・89%、Selicが13・75%(ブラジル中央銀行サイトより)

逆方向を向く「金融政策」と「社会福祉政策」

 最近のニュースを読んでいると、ブラジル経済が軋む音が聞こえてきそうだ。というのも、「金融政策」と「社会福祉政策」が、財政的には逆方向の効果をもたらしているからだ。
 金融政策としては、中央銀行はどんどん基本金利を上げてインフレ抑制をしている。基本金利を上げれば、銀行が市中に貸し出す金利も上がるから、経済の潤滑油であるお金の動きが鈍くなって景気が悪くなり、資金需要が減るからインフレが下降する。
 と同時に、インフレ対策の対処療法と社会福祉政策のために、ボルソナロ政権と連邦議会は7月にPEC(憲法修正案)を二つも承認して、大規模なバラマキを実施して大規模な金融緩和を進めている。またIPI引き下げ大統領令もあり、大盤振る舞い状態だ。
 車にたとえれば、基本金利引き上げというサイドブレーキを強烈に引きながら、金融緩和というアクセルを思いっきり踏んで、来年の税収減につながる減税というエンジンの性能を損なう可能性のあるターボまでバンバンに吹かしている状態だ。無理に負荷をかけた状態を維持しているからギシギシと車体が軋んでいる。
 これらは全て16日から始まる選挙活動に焦点を合わせて仕組まれている。ボルソナロ政権および連邦議会を牛耳るセントロンは、選挙の直前というタイミングで「選挙対策」的なバラマキ政策を実行した。
 特定の政治勢力(政権側)に利するような形で莫大な公的資金を使うことになるので、本来なら選挙法違反になってもおかしくない。だから、多くのジャーナリストやメディアは「選挙法違反の可能性」をさんざ指摘したが、最高裁も選挙高裁も今回は見逃した形だ。
 というのも、パンデミックによる国民の貧困化は実際にひどい状態であり、「法律を遵守して国民を見殺しにするか、法律を横に置いて国民を助けるか」となったときに、「法律は本来、国民を守るためにある」という原則に立ち返れば、「今回は見逃す」となったのではないか。
 パンデミックを通して格差が拡大し、ほぼ国民の15・5%、3300万人が極貧状態にある。統計によっては4人に1人、4700万人とする発表もある。この国民を助けるには「目をつぶる」しかない。セントロンは実に絶妙なタイミングを選んだ。
 大統領はいまだに「電子投票は信用できない」「最高裁は偏っている」みたいなことばかり訴えているが、大半の国民の関心事はそこには無い。
 例えば、BBCブラジル7月25日《2018年と比べて、22年のブラジル人有権者の意識は何が変わったか》(https://www.bbc.com/portuguese/brasil-62270734)によれば、4年前の選挙時、国民が大事な争点と考えていたのは「政治家の汚職問題」だったが、現在では「経済問題」に変わった。
 対ルーラ選挙キャンペーンを考えたとき、ペトロブラス汚職疑惑という追い風を最大限に活用して、「汚職問題解決」を訴えたからボルソナロは前回当選した。だが、パンデミックを経て貧困化が進んだ国民にとって、現在の問題は「今日何を食べられるか?」に変わった。
 それに気づいたセントロンは選挙前というタイミングを選んで、二つの憲法改正案をムリヤリ通した。これが選挙キャンペーンにおいて、国民へアピールする最大の成果となるだろう。

Selic上げながら大規模な金融緩和

ルーラのフェイスブックのフォロアーが500万人越えを記念した5日の投稿、7日朝9時点でいいねボタンを5万9千人が押している

 6月現在の12カ月累積のインフレ率IPCAは11・89%だ。インフレを止めるための基本原則は(1)金融緩和をやめること、(2)金利を上げることの二つだ。
 インフレはモノに対してマネーの価値が下がる現象だ。マネーを増やし過ぎたから、モノに対して価値を失い、物価が上がった。
 パンデミックが起きて、国民に支援金を出すために世界中の中銀が一斉に大規模な金融緩和をやってマネーを激増させた。その結果、現在、世界的にインフレが高まり、ロシアのウクライナ侵攻によって更に一段エスカレートした状態になっている。
 だから、日本以外の欧米先進国などは今年から金融緩和をやめ、金利を上げ始めた。ブラジルはその先鞭を切って、昨年3月から金利を上げているが、先述の通り金融緩和の停止はできていない。
 そんな中、3日にブラジル中銀の金融政策委員会がSelic(基本金利)を0・5%上げ、13・75%にした。去年の3月までは2%だった。そこからなんと12会合連続で上げ、5年ぶりの高金利水準になった。
 今後の予測としてもう一段階、0・25~0・5%ほど上げて、最終的に14%を超えると見られている。この状態がしばらく続き、金利切り下げが始まるのは来年後半という見方が、ほぼ市場のコンセンサスとなったようだ(https://www.infomoney.com.br/mercados/copom-surpreendeu-ao-sugerir-nova-alta-de-juros-e-alongar-horizonte-para-inflacao/)。
 今月のインフレ数値は低くなりそうなのに、なぜそんなに高金利を続けなければいけないかと言えば、7月に憲法修正案PECカミカゼ(PEC Kamikaze、正式名称PEC15/2022、以後PEC15と略)によって大規模な支援金のバラマキ実施を決め、その財源を調達するために金融緩和をしたからだ。
 これにより、年末までアウシリオ・ブラジルを400レアルから600レアルに上げ、トラックやタクシー運転手にも1千レアル/月の支援金を7月分からばら撒く。それらにかかる費用は約412・5億レアル。
 これは歳出上限の枠外でしか調達できないため、それが可能にできるように、わざわざ非常事態宣言を出している。

今年の経済成長は上がるが、その分来年下がる

1461万人がフォローするボルソナロのフェイスブック

 7月、上下両院ではPEC15と同時に、商品流通サービス税(ICMS)の上限設定する憲法補足法案(PLP18/2022)が承認された。燃料、エネルギー、輸送、通信に関する州税の税率を無理やり下げることで、インフレを短期的に抑えるもの。
 実際にこれによって、燃料価格などの下落がおき、インフレ圧力がここ数カ月程度は下がると見られている。ICMSは州税なので、州によっては30%以上課税していたところもある。それを17~18%に制限したことにより、大幅に収入減となる州も生まれ、不満がたまっている。
 根本的なインフレ対策ではないので、このICMS上限設定の効果は一時的だ。しかも金融緩和を続けている状態だから、いずれインフレは再び上がり始める。だから、14%金利の状態が長引く可能性が出てきた。
 PEC15による各種支援金支給によって、低所得層などが年末まで所得増となる臨時的な経済効果で、今年の国内総生産(GDP)が上がると見られている。
 そのために、今年の各種経済予測では、インフレ数値が予想より下がり、支援金バラマキによってGDPが予想より上がるという結果になっている。
 その中で、ボルソナロ大統領は7月29日、アマゾナス州マナウス市のフリーゾーン(ZFM)で生産する製品を除く工業製品の工業製品税(連邦税IPI)を35%引き下げるという大統領令を出した。税率を下げて商品価格を下げ、インフレ圧力弱めるためだ。ICMSによる州政府の税収が今年激減するのに加え、連邦政府自体も莫大な税収を失うことになる。
 ちなみにICMSによる州政府と市の減収分を補填する費用を入れると、来年の政府予算にかかる負担は2814億レアルになる。
 さらに年初からストが繰り返されている連邦公務員の給与の再調整を実施するなら、その金額は3064億レアルに達する可能性があると報道されている。まさに来年に向けた時限爆弾だ(https://www.estadao.com.br/economia/medidas-eleitorais-custo-governos/)。
 誰が大統領になっても、最初からこの重荷を背負う運命が待っている。このICMS補填金額を州政府に払うためには、連邦政府は新税を作るとか増税するとか、国債を発行するなどの対処が必要になり、その分、来年の経済成長予測を押し下げている。
 つまり、来年分の税収を犠牲にしたポピュリズム政策を現在、選挙対策としてやっていることで、ここ数カ月の数字は良くなっても、来年はその分、悪化することが予想される。
 どう悪くなるかと言えば来年の経済成長率がより低くなり、高インフレがより長く持続する。その結果、生活支援を必要とする貧民が増え、次節で説明するとおり、支援金の実質的な価値が下がり、さらにアウシリオを増額する必要が生まれてくる。まさに悪循環だ。

支援金すらもどんどん目減りする悪循環

フォーリャ紙7月26日付《「次の政権が誰であれポピュリズム(大衆迎合)なら1ドル8レアル、Selic20%はありえる」とマネージャー》

 インフレはパンデミック以前からの問題だ。ブラジルはコロナ禍以前からインフレ体質だった。2020年には緊急事態宣言を使って歳出上限を無視して緊急支援金の支給を始め、その財源として大規模な金融緩和が始まった。そこからインフレ体質が再び顔をのぞかせ始めた。
 レアル通貨が開始された1994年7月から今年6月までの28年間のインフレ率は、実に653%にもなる。つまり、28年前の100レアル紙幣の価値は、現在なら748レアルだ。コロナ禍以前にはある程度コントロールが効いていただけで、今でもインフレ体質自体は変わっていない。
 そして来年、誰が大統領になっても、アウシリオ600レアルは継続される可能性が高い。その分の費用も来年の予算に組み込まれる。
 今のような二ケタのインフレが続けば、悲しいことに国民が受け取る価値はどんどん目減りしていく。2020年5月に支払われたコロナ緊急支援金は600レアルだった。その時から今年6月までの累積インフレ率は21%にもなる。つまり今年6月に同じ価値の支援をするなら、726レアルを払わなければならなかった。来年6月なら約900レアルか…。
 フォーリャ紙7月26日付《「次の政権が誰であれポピュリズム(大衆迎合)なら1ドル8レアル、Selic20%はありえる」とマネージャー》(https://www1.folha.uol.com.br/mercado/2022/07/populismo-de-proximo-governo-pode-levar-dolar-a-r-8-e-selic-a-20-diz-gestor.shtml)という恐ろしいインタビュー記事が出た。
 ウクライナ侵攻以降、欧米諸国は一斉に金融緩和停止と金利引き上げに舵を切った。それが意味するのは、来年の世界の経済成長率が下がり、世界的な景気後退の可能性が高まったと言うことだ。世界的な景気後退という不安定な状態は、投資家のリスク意識を高め、高リスクとみられる新興国への投資を引き揚げることにつながる。
 ただでさえ、新興国から資金を引き揚げる機運が強まっているところへ、ブラジルの新政権がポピュリズム政策を次々に打ち出して財政バランスを悪化させるような方向に持っていけば・・・。
 イギリスの投資会社ジャナス・ヘンダーソンで新興国市場を担当するブラジル人マネージャーのアレス・クートニー氏は、来年のポピュリスト政策があまりに行き過ぎた場合、外国人投資家がブラジルからの急激な資源逃避を誘発し、レアルが急激に下がって1ドル7・50~8・00レアルの水準に達する恐れがあると警告している。
 そうなった場合、中銀は資金流出を抑えるためにSelicを20%まで引き上げるという反応が予想され、さらに来年の経済を冷え込ます可能性がある。
 現在の中銀フォーカスの予測では年末の為替は1ドル5・20レアル、来年末も同じ。Selic予測は今年末13・75%、来年末10・75%だ。だが、最近の中銀予測は「当たらない」ことで定評がある。
 今の経済悪化というシナリオは、基本的にルーラ再選に有利に働くと見られている。多くの国民からすると〝大きな政府〟によるバラマキ政策は左派が得意とする政策だと期待されているからだ。その結果、来年何が引き起こされるか・・・。(深)

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