《特別寄稿》恐れ入り谷の大塚弥生さん=ビラ・カロン在住 毛利律子

大塚弥生さん(2017年)

 山口県出身の大塚弥生さんといえば、サンパウロ市で書道や絵手紙を教え、これまでにも日本国内で開催されている絵手紙コンテストで佳作・優秀賞、奨励賞などを受賞されていることは、新聞で紹介されていますので、ご存知の方も多いと思います。
 私が弥生さんに初めてお会いしたのは、2018年、とある勉強会の席でした。その会はほぼ女性ばかりでしたから、女性特性の、要するに全員が一斉にしゃべりだしたら止まらない、だれにも止められないといった、活発な会でした。
 弥生さんは出席の度に手作りの美味しいおつまみ料理を持参され、時々、帰り際に絵手紙をさりげなく手渡ししてくださいました。ほんのりと薄化粧し、シルバーグレーの髪に小さな髪飾りを付けたお洒落で素敵な女性でした。
 ある日、弥生さんが立ち上がったときに、私は初めて彼女が障がい者であることに気づきました。左脚を太ももから切断しているのです。ところが、勉強会の都度、自分で車を運転して参加しているということを知って、改めてその前向きな気概に驚かされました。

驚くなかれ、手作りマスク・五万枚

 2019年までは、会う機会もありましたが、20年から始まったコロナ禍での蟄居生活が結局21年、そして、現在でもなかなかどこかでお会いしましょう、という気分になれず、月に一度、電話でおしゃべりを楽しみ、健康を確認し合っています。
 つい先日のことですが、その電話でのやり取りで驚くべきことを知りました。
 (弥生)「家の中でできることをしながら過ごしています…ここ数年続いたコロナ禍で頑張っている看護師や、友人知人のためにマスクを作って配りました。私のできるささやかで精いっぱいの社会貢献です」
 (毛利)「何枚作ったのですか?」
 (弥生)「5万枚です!」
 (毛利)「ハアア…⁉5、5万マイですか?」
 (弥生)「ええ、主人にも少し手伝ってもらいましたが。手元にある木綿の端切れで作りました。皆さんへの感謝の思いを込めながら・・・ね!」
 コレで驚くのはまだ早い。
 弥生さん手作りの絵手紙には、かわいい挿絵に実に軽妙洒脱、意味深長な短い言葉が綴られ、いつも深く感動しています。手元に置くのはもったいないので、ご縁のある方に弥生さんのことを紹介しつつ差し上げていました。
 そのことをさりげなく弥生さんにお伝えしました。6月初めのことでした。すると、ひと月も経たたぬうちに重たい荷物が届きました。開けてみて、そっくり返るほど驚いたのには、その中に5枚つづりの絵手紙が百組入っているのです。
 それには、貝のストラップ飾りまで添えられていました。多くの人に届けたいという気持ちはさておき、実際にこれほどの作品を形にする弥生さん。ただものではない。恐れ入りました。

大阪府泉佐野市主催「第12回全国タオル筆で描く絵てがみコンクール」で『奨励賞』を受賞した大塚弥生さんの作品(2022年)

 ここにいくつかの絵手紙の文章を紹介します。選ぶのに非常に迷いました。そのくらいどれもこれも珠玉の言葉ばかりだからです。
●困難だからこそ たどりつける 喜びがある
●人生は 愚痴るな 嘆くな 一歩前へ
●その日、その時を 最高に生きる
●生きるとは すべてのことに 燃えること
●ありがとう 送る言葉の 大切さ
 日ごろから弥生さんの語り口は明快で、しかも声が大きく、生来、才能に恵まれ、精神力の強い方であっただろうということが容易に伺えます。

人生半ばで障碍者になった。
失ったものは大きすぎた。
しかし、まだ余力があるではないか
それを生かさずして どうする。
(弥生さんの言葉)

 ブラジル移民としての生活は容易に語ることのできない厳しい困難の連続でした。ようやく人生半ばにして人生の幸せを実感した矢先に、突然始まったのは病魔との戦いでした。
 病気はその人の誠実さや勤勉さに関係なく不意打ちをしてくる。しかも、弥生さんは思いもかけぬ院内感染によって足を切断することになったのです。
 「一生懸命生きてきたのに、なぜこんなことになるのか…と、絶望的になり何度も自殺を図ろうとした。しかし、もしうまく死ねなかったら、さらに家族に迷惑をかけることになる、だからと言ってこのままで終わるわけにはいかないと、そういう迷いの中で生きていた。そして悟った。今やもう自分は健常者ではない。障がい者になった。だからこそ余力を以ってできることをやり尽くしたい」
 弥生さんは人生の熟年期に脚を失った。それ以後は合併症との戦いの連続となった…。もし私だったらどうしていただろう…他人は、相手の痛みも、流した涙の量も測り知ることはできない。 しかし、ふとしたご縁から日々新たに、強いバネのような力を以って前向きに生きることを、改めて教えられました。
 大塚弥生さんは尋常ではない意志の強さで、これからも充実した人生を送られると祈っています。

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