《ブラジル》ファキン選挙高裁長官が米国で講演「議事堂襲撃より酷いことも起きえる」=10月の大統領選に懸念表明=ルーラに爆弾騒ぎ、安倍元首相銃撃で緊張高まる

6日のファキン判事(左)(TSE)

 選挙高裁のエジソン・ファキン長官は6日、米国で昨年起きた、トランプ前大統領支持者による連邦議事堂襲撃事件のようなことがブラジルの大統領選でも起こりうるとの懸念を表明した。一方、軍が選挙高裁に対し、執拗に電子投票の安全性の確認を求めて食い下がっており、緊張感が高まっている。7、8日付現地紙、サイトが報じている。
 ファキン長官の発言は、米国ワシントンDCのウイルソン・センターでの講演で行われたものだ。同長官はそこで、「昨年1月6日にキャピトル・ヒルで起こったこと以上のことがブラジルでは起こりうる」と発言し、警鐘を鳴らした。
 これは、ジョー・バイデン氏の大統領承認を連邦議事堂で行う予定だった日に、トランプ前大統領支持者が襲撃をかけた事件のことを指しているが、同長官はブラジルの大統領選ではそれ以上の惨事が起こりうるとの見方を示した。
 ボルソナロ大統領が昨年、証拠もなく選挙不正を訴え続け、投票結果の印刷付電子投票(ヴォト・インプレッソ)の導入を求め、却下された頃からは選挙高裁への攻撃が激化。大統領だけでなく、大統領の発言に煽られた支持者らによる選挙高裁攻撃も続いている。また、4月に就任した前陸軍司令官のパウロ・セルジオ・ノゲイラ国防相は「軍に選挙を監視させろ」との圧力を強めている。
 選挙高裁は軍による監視を断り、5日には米州機構との間で選挙監視団派遣に関する合意書に署名。その他の国際監視団の派遣合意も進める意向で、その準備も進めているが、軍はなおも食い下がっている。
 エスタード紙の報道によると、軍は選挙高裁に対し、選挙で実際に使用する電子投票機を公開でテストさせることや、政党による外部監査などを求めているという。6日にはノゲイラ国防相が下院の委員会で、「我々はこれまで自分の居場所で黙ってきていたが、選挙高裁に招かれた」との発言も行うなど、軍の干渉を正当化するような発言も行った。
 この発言に対し、最高裁元長官のジョアキン・バルボーザ氏は7日、ツイッターで「軍は自分の居場所で黙っておかなければならないもの。選挙の過程に口出しする余地などどこにもない」と強い違和感を表明し、「このようなやり方に固執するのは再選を望むボルソナロ大統領と結びついていることは明らかだし、そんなことが認められるとブラジルではクーデターが起こってしまう」と警鐘も鳴らした。
 その矢先の7日、ルーラ元大統領がリオ市シネランジアで行おうとしていたキャンペーンで、自家製の爆弾が投げ込まれる事件が起きた。ルーラ氏の到着前で、負傷者も出ず、犯人も逮捕されたが、候補者に対する警備の厳戒態勢をより強める必要性が問われる一件となっている。
 また、8日には参院選を2日後に控えた日本で、安倍晋三元首相が散弾銃で殺される事件が起きた。大統領選が極右のボルソナロ氏、左派のルーラ氏で2極化した状況だけに、ブラジルでも激戦による支持者たちの過熱ぶりが懸念される状況だ。

□ひとくち記者コラム□

 8日に突然入ってきた安倍晋三元首相の暗殺事件。ブラジルでも2018年のボルソナロ氏の刺傷事件や、7日のルーラ氏に対する爆弾騒ぎなど、選挙が過熱しやすい状況は日本以上にあるだけに、他人事ではない。10月の大統領選で、全世界を震撼させるような惨劇が起こらないことを願いたいところだ。

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