《記者コラム》日本はとっくにインフレでは?=日銀は頑なに「デフレ」と言い張るが

レアル高、円安という居心地の悪い数字

 最近の経済ニュースを見ながらとても居心地の悪い思いをしている。どうして日本がインフレでないのか、まったく理解できない。
 ブラジルはもちろんのこと、米国や欧州など世界中がインフレに苦しみ政策金利を上げる流れにある中、ほぼ日本だけがデフレと言いはり、政策金利を上げる気配を見せない。ブラジルは先頭を切って昨年前半から一気に10%近く金利を上げた。新興国らしく臨機応変に対応した。そこに住んでいるものとして、いまもデフレと言いはる日本の方が理解に苦しむものがある。
 世界的インフレの主要因は、明らかにパンデミック中の各国政府の巨額な財政出動にある。いわゆる金融緩和を世界の主だった国の中央銀行が一斉にやった結果、マネーがとんでもなく膨らんで、モノが増えなかった結果、通貨の価値が下がったために物価が上がっているように思う。
 商品の需要が増えるとか、モノ自体の価値が上がった訳でなく、マネーがダブついて通貨の価値が下がった。
 世界でそのようなインフレが起きているのだから、当然日本国内にもそれが反映され、エネルギーや食品などの価格が高騰している現実がある。にも関わらず、次のように日本銀行はいまだ「日本はデフレ」という建前を崩さない。
 《[東京 7日 ロイター] – 日銀の野口旭審議委員は7日、熊本県金融経済懇談会後の記者会見(オンライン形式)で、日本の課題はデフレや低インフレからの早期脱却であり、円安よりも円高の方が困ると述べた。円安が日本経済にもたらすメリットとデメリットを比較すれば、プラス面の方が大きいとした。
 野口委員は懇談会の挨拶で、エネルギー等を除いたインフレの基調は極めて低い水準にとどまっているとし、政策課題はインフレの抑制ではなく「デフレあるいは低すぎるインフレからの脱却だ」と述べた》(https://jp.reuters.com/article/boj-noguchi-idJPKCN2LZ0IY)と報じられた。

高金利なコモディティ供給国にマネーが一次流入、ドル高に回帰へ

 世界中の国々の財政出動によって金融市場に注ぎ込まれたマネーがダブつき、一部がエネルギーや食料などのコモディティ投資市場に流れ込んだから、国際的なコモディティ商品が値上がりし続けている。
 その流れで、ブラジルのようなコモディティ供給国かつ高金利な国に、外国からの資金が流れ込んでいる。だからレアルが上がり、B3株式市場などが上昇する。
 その流れを逆にみれば、コモディティを輸入するばかりの国で、金利を上げない国の通貨は下がり、株式市場も下がる。それが日本だ。
 今年に入って対レアルでドル安になり、19日には4・66レアルまでレアル高になった。昨年末は5・7レアルだったから、すごいレアル高だ。そしてサンパウロ証券市場は基本的に上がり基調だ。
 逆に円は下げて129円まで来てしまい、東証も基本的な流れでは下落を続ける。米国の高金利につられて日本国内にあった国際投資家の資本が米国に移動する流れの中で、円が売られて、ドルが上がっている。日本国民からすれば円安が進めば物価高が酷くなる。
 昨年までは「米国がインフレ圧力で基本金利を上げたら、新興国から資金が引き揚げられて、ブラジルも株が暴落する」という話を、大半のブラジル国内外の経済専門家がしていた。
 今まではこのレアル高基調だったが、ここへ来てようやく米国中央銀行の連邦準備制度(FRB)が利上げ加速の意思を見せ、再びドル高の流れに戻り、同時に米国株急落懸念が出てきたとメディアを騒がせ始めている(https://www.correiobraziliense.com.br/economia/2022/04/5002630-dolar-dispara-com-sinal-de-alta-de-juros.html)。
 とはいえ、昨年末あたりから今までとは違うパターンでグローバル経済が動き始めていると思わせる部分がある。中でも一番気になるのは日本銀行が「日本がインフレ」と認めないことだ。
 本紙は「吹けば飛ぶような邦字紙」であり、「なぜ、おまえのような門外漢が書く必要があるのか」と言われれば、その通りだ。だが、あまりにも不可解なので批判を承知で一言書きたい。

現実は「価格は平均で1割アップ」

 「日本のインフレ」の現状は大変深刻だ。例えば、帝国データバンク4月16日配信ヤフーニュース《食品主要105社、6000品目超が今年「値上げ」 価格は平均で1割アップ 輸入小麦・油脂など原材料から、包装資材の高騰も響く》(https://news.yahoo.co.jp/articles/f4dc58ccfd3ad9b74cb3c50504c112c570c9e82b)の冒頭にこうある。
 《原材料価格の高騰が続くなか、消費者生活に直結する食品分野で価格の改定(値上げ)が相次いでいる。上場する食品主要メーカー105社における、2022年以降の価格改定計画(実施済み含む)を調査した結果、4月14日までに累計6167品目で値上げの計画があることが分かった。このうち、6割超にあたる4081品目では4月までに値上げした。今年に入り、食用油や小麦粉、大豆、砂糖など主原料系の高騰は周辺商材へ急速に波及するなか、直近でも冷凍食品や醤油、食肉加工品、水産練り製品、豆乳、菓子などで、原材料高を価格へ反映させる動きが急増している。また、各品目の価格改定率(各品目での最大値)は、平均で11%となった》
 要約すれば「消費者生活に直結する食品分野の値上げが相次いでいる」わけだ。これがインフレでないという理由が分からない。これは「単なる物価上昇」であって、「インフレ」ではないと日本銀行は考えている。
 日本の記事を読んでいて不思議なのは「値上げ」と「インフレ」を使い分けている。おそらく「値上げ」は一時的ですぐに収まる経済動向、「インフレ」は中長期的な経済動向のように区別しているように見える。
 ブラジルで生活する者として、それを区別する意味が分からない。たとえば「半年」は短期的なのか、中期的なのか。消費者にとっては半年間値上がりが続くことは十分に影響を与える。
 流通ニュースサイトで「値上げ」検索(https://www.ryutsuu.biz/tag/値上げ)したら、昨年11月以降、ずらりと商品値上げの話題が続く。もう半年ではないか。

ブラジル式基準なら日本のインフレは何%?

 ブラジル式基準で日本国内の調査をしたら、おそらく軽く2%を越えるのではないか。日本でよく使われるインフレ指数は、総務省が毎月発表する消費者物価指数(CPI)。中でも、生鮮食品及びエネルギーを除く「コアコアCPI」、生鮮食品を除く「コアCPI」がよく使われる。
 この指数が奇妙だ。ブラジルではガソリンや電気代はもちろん、トマト、人参、牛乳が値上がりすればインフレに直結する。だが、日本では生鮮食品は計算から外されている。だからインフレとは認識されない。だがブラジル式ならとっくにインフレなはずだ。
 日本では次のような言説がまかり通っている。「インフレは景気拡大に役立つ。インフレになればその分、給与が上がる。給与が上がれば消費意欲も高まる。だから持続可能なインフレは良い」的に語られることが多いが、とても疑問だ。強い違和感を受ける。
 ブラジルでは「インフレが昇給につながる」などと思う国民は一人もいない。インフレが意味するのは「その分、実質的に給与が減る」「消費能力が下がる」だけだ。インフレ分を毎年、丸々昇給する国が世界のどこにあるのか。

日銀は「指し値オペ」を実施

 インフレなのに認めたくない状況を、ブラジル的に見れば「きっと金利を上げたくても上げられない〝大人の事情〟があるからだろうな」という風にしか見えない。
 日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準にある。それを支えているのは国債発行の継続(金融緩和)だ。ちなみにブラジルの債務残高はGDPの約90%前後。19年には76%だったがパンデミック対策で激増した。
 日本政府は本当はインフレなのに認めたくないから、インフレ指数の計算の方を変えているようにみえる。世界一積み上がった国債の利払いが大変になるので、金利を上げたくない。だからインフレを認めてはならない。それゆえインフレ指数の計算式の方をいじる。金融緩和を続けるには国債発行が必須だが、それを続けるとインフレがさらにひどくなる。
 日本国債の金利が上昇しないように、日本銀行は21日から「指し値オペ」を開始した。国債は一般に、発行しても売れなかった場合は価格が下がるので、金利の方を上昇させて売れるようにする。金利が上昇すると将来の利払いが増えて困るので、日本銀行が「指し値」(0・25%)を決めて、それ以上の金利になったら無制限に買い入れて金利上昇を防ぐ。それが指し値オペだ。今年は2月に続いて2度目。
 日本経済新聞4月20日付サイト記事は《日銀は3月28日に通常の指し値オペ、同29~31日に連続指し値オペを実施しており、4日間で計6000億円ほどの10年債を買い入れている》と報じた。日本政府が発行した国債を、日本銀行が無制限に買い入れる。まさに「打ち出の小槌」状態だ。これがいつまで続けられるのか。
 それに日本は世界で一番、米国債を買っている国でもある。米国債を買う資金は日本国債だろう。日本国債の金利が上がると今までの調子で米国債が買えなくなるから、上げたくないのかと勘ぐりたくもなる。
 米国は政策金利を上げ始めたにも関わらずインフレが止まらない。しかも政策金利を上げれば、国債の金利も上がるので通常なら買いが集中して金利が下がるはずなのに、逆に米国の10年国債の利回りは2・9%まで上がった。
 誰かがさらに大量に米国債を買わないと金利が上がってしまう。米国債の金利がさらに上がれば、その返済が大変なことになり、米国財政が不安定になる。そのため政策金利を上げる勢いを増そうとしていると報じられている。
 そのような状況だから、ドル覇権が崩壊して多極化するのではないかという言説がどんどん力を増すことになる。
 そんな時にウクライナ侵攻が起きた。東京新聞4月14日付サイト記事(https://www.tokyo-np.co.jp/article/171750)によれば《侵攻開始後に米国から提供した兵器は計24億ドル分、EUの軍事支援額は15億ユーロにのぼる》と報じられている。24億ドルは約3千億円、15億ユーロは約2040億円。計5千億円もの公的資金が兵器産業を潤している。
 毎日新聞サイト4月8日付によれば《米国がこれまでに決定した武器供与は▽携行式地対空ミサイル「スティンガー」1400発以上、「ジャベリン」5000発以上を含む対戦車ミサイル1万2000発以上▽自爆攻撃機能を持つ無人航空機「スイッチブレード」数百機▽小火器7000丁以上▽弾薬5000万発以上▽レーザー誘導式ロケットシステム――などとなっている》とある。
 「プーチンは戦争犯罪者」を強調し、大量の武器供給を正当化している。もしこれだけの武器供給がなかったら、とっくにウクライナは白旗を揚げ、戦争自体が終わっていた可能性が高い。だが、戦争はズルズルと長引く方向に来ている。
 そのおかげで欧米の軍需産業が作った大量の武器が消費されている。戦争は「巨大な公共事業」だ。それは国債発行によってまかなわれている。ロシアに味方するつもりはないが、この流れが良いとも思わない。
 『ブラジル日系文学』69号の巻頭言にも《あるブラジル人の評論家が次のようなことを言っていた。どうして欧米主要国がこうも簡単に多額の支出をして、ウクライナに兵器を送ることに疑問を持たないのか。兵力でいえば数倍ともいわれる大国相手に、武器を与えるからら力づくで戦え、と言っているようなものだ。当然、独裁者にむざむざと屈服することはできない。その間、犠牲者は増え続ける、という矛盾を指摘していた》とずばり書いてあった。
 この流れの先にあるのは何なのか。ロシアを追い詰めすぎて核兵器を使わせることになるのではと心配になる。日米の経済がおかしくなる前に、どこかで落としどころを作って欲しい。(深)

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