《ブラジル記者コラム》日本発の金融危機が世界を襲うか=マーケットが日銀の限界を試す?!

ブラジル人エコノミスト「日本発の津波が世界を襲う」

フェルナンド・ウルリッチが9日に投稿した動画

 「この20年で一番円安になった。どこまで日本銀行が耐えられるか、マーケットは試そうとしている。米国、EUみながインフレを認識し、金利を挙げ始める中、日本は先進国で唯一、金融緩和継続を宣言した。円売りはさらに進む。日銀が買い支えられなくなった時、日本発のツナミが世界を襲う可能性がある」
 これは常々、日本の財政状態に警告を発しているブラジル人エコノミスト、フェルナンド・ウルリッチが9日に投稿した《A aposta contra o Japão que pode causar um tsunami nos mercados globais(世界市場に津波をもたらすかもしれない日本への賭け)》(https://www.youtube.com/watch?v=1NEfdlW9H3U)という動画内でのコメントを要約したものだ。
 言うまでもなく、9日は日本円が134円という円安を20年ぶりに記録した日だ。
 彼のチャンネル登録者数は48万人もおり、ブラジルの若手エコノミストの注目株の一人だ。この動画は12日午前9時現在で約10万人が試聴し、1万1千人がいいねボタンを押し、低評価ゼロだ。
 彼の話の基本的な話は「GDPを超える巨額の負債を抱えながら、際限のない円安に追い込まれ、さらに金融緩和を進める日本は大丈夫なのか」と言うものだ。G7の中で日本だけが金融緩和を継続しているのは、日銀がデフレだと主張しているからだ。

「値上がり」が数字に反映されない日本のインフレ統計

※灰色はG7の国々

 格付け機関によれば、G7各国のインフレ率は英国9・0%(世界5位)、米国8・6%(同8位)、ドイツ7・9%(同9位)、イタリア6・9%(同12位)、カナダ6・8%(同13位)、フランス5・2%(同17位)などが続く。日本はぐっと下がって21位で2・5%・・・。
 世界中と貿易するグローバル経済の最先端にいる日本が、国内だけ世界のインフレ動向から免れることが本当にできるのだろうか。《物価上昇》や《値上がり》という言葉は日本のメディアに頻繁に現れるのに、けっしてそれが「インフレ」に直結しない不自然さを感じる。
 それが可能になっているのは「変動が激しい食料品、エネルギー関係は統計から外す」というカラクリがあるからだ。ウソをついているわけではない。総務省統計局のサイトには、消費者物価指数(インフレ率)に関して、次のような説明が書かれている。
 《消費者物価の基調をみるために、「生鮮食品を除く総合」指数や「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」指数が用いられることがあります。「生鮮食品」は天候要因で値動きが激しいこと、「エネルギー」(ガソリン、電気代等)は海外要因で変動する原油価格の影響を直接受けることから、これらの一時的な要因や外部要因を除くことが消費者物価の基調を把握する上で有用とされています》(https://www.stat.go.jp/data/cpi/4-1.htm
 物価が一時的に上下する状況であれば、それにも一理ある。だが、現在のように半年以上も上がり続けている状況の中で、それの数字がインフレ統計に反映されないのはおかしい。あまりにも国民の生活実感からかけ離れたインフレ数値に、不可解さを感じる。本来ならカナダ、フランス並みのインフレなのに、計算式の方がおかしいという気がしてならない。
 以前も《日本はとっくにインフレでは?=日銀は頑なに「デフレ」と言い張るが》(https://www.brasilnippou.com/2022/220426-column.html)を書いて、かなりの反響があった。それから1カ月半が経ち、その疑惑はさらに深まった。
 もちろん、経済の専門家ではないコラム子の見立てが間違っている可能性も大いにある。

本当のインフレ率は3%以上なのでは

円のお札(すんだら みやこ、写真AC)

 主要先進国が金融引き締めに動く中、岸田政権はまったく逆の判断を下した。
 ブルームバーグ9日付サイト記事(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-06-08/RCZVEDDWLU6901)にあるように、日本政府は《財政健全化目標で掲げてきた基礎的財政収支(プライマリーバランス)についても、昨年まで明記してきた「25年度」とする黒字化達成期限が抜け落ちた》という方針を発表し、「異次元緩和」(安倍晋三首相当時の経済政策アベノミクスの柱)を継続させる意向を明確にしている。
 日本以外のG7諸国では5%以上のインフレが起き、米国もEUも金融引き締めと共に基本金利を上げる動きになっている中で、まさに〝異次元〟の発想だ。低金利の円が今以上に売られることは明らかだ。
 本来、金融緩和をするには国債発行が必要だ。国債発行をするには、利払い負担が大きくなるので、インフレを3%以下に抑える必要があると言われる。今すでに3%を越えているなら、これ以上の国債発行は危険だ。「それなら3%以下で抑えていることにしよう」という力が働いているようにすら見える。
 表面上は、黒田東彦日銀総裁に「日本はまだデフレだ」と言わせて矢面に立たせている。誰か知らないが黒幕がいてムリヤリに言わせているのではないだろうか。
 では、現在のように日本がマイナス金利を維持して国債大量発行を続けると、誰にメリットがあるのか。円が低金利を維持して米国の基本金利が上がると、ドルが買われる。米国株式市場が不安定な現在、そのドルで米国債10年が買われやすくなる状況ができている。もちろん日本国債を発行した資金で、日本政府が米国債を買うこともある。日本は世界最多の米国債所有国家だ。
 現在米国債10年は3・3%まで利払い金利が上がり、上限まで来ているが、それでも買いが少ない状況だ。日本が金利を上げたら、さらに米国債10年は売れなくなる。それなら日本は金利を上げず国債を発行し続けて、米国債を買い続ける・・・。
 日本はマイナス金利を維持するという形で、いわば身を挺して米国債が破綻しない状況を作り出しているようにも見える。だが円売りが今後あまりに加速すると、日本経済があまりにもひどくなるし、日銀介入にも限界が来る。
 いわゆるハゲタカファンド的な組織は、虎視眈々と市場のゆがみを見つけては、そこにゆさぶりをかけて試そうとする。マーケットの一部には、日本を破綻させることで儲けようと試みる者が存在するだろう。

まさか日本が世界の金融バブル崩壊の引き金に

円為替の変動の推移。1998年以来の円安水準にまで

 と言うか、円安による物価上昇に国民が耐えきれなくなり、不満が激増していくに違いない。インフレで得をするのは、円建て負債を目減りさせられる日本政府だけでは。物価上昇に比例して賃金上昇が起きない国民はどんどん苦しくなる一方だ。
 フェルナンドは160円/ドルまで下がる可能性に言及し、国民からの政治家への批判が強まり、日銀が円安に耐えきれなくなって基本金利を上げた際、一気に為替が変動して多くのファンドが潰れた1998年の例を引いて警鐘を鳴らしている。
 1998年、150円近くまで一端下がってから急激な円高になった。マネックス証券サイト(「止まらない円安」、1998年の例を振り返る)(https://media.monex.co.jp/articles/-/19218)には、《財務省の統計によると、1998年4月、1米ドル=140円を超えたところで、財務省は2兆円以上の米ドル売り・円買いの為替介入に出動した。まさに円安を止めるために、何と2兆円もの円買いに出動したわけだ。しかし、それでも米ドル高・円安は止まらず、1998年の夏にかけてさらに150円に迫るまで米ドル高・円安は続くところとなった》とある。
 現在は、1998年当時よりもデリケートな金融環境にある。
 というのも、2008年のリーマンショック以降に始まった米国の金融緩和、パンデミックで世界の中銀が一斉に始めた金融緩和により、世界のマネーがバルブ状態になっている。世界中のマネタリーベース(現金の通貨と民間の金融機関が中央銀行に預けた金銭の合計)が、2018年から飛躍的に増えた。

 これは第1次安倍政権が始めた「異次元緩和」を世界が真似しているような状態に見える。バブルは上手に軟着陸させない限り、いつか破裂すると言われる。
 その上に、2月からのロシアのウクライナ侵攻による世界的なインフレ、エネルギーや食糧の危機などの世界的な不安状況がかぶさっている。
 日本が基本金利を上げて、ドルが売られて円高になった結果、起きるのは米国債の売りだ。それがあまりに劇的に起きるとバブル崩壊を招き、ドル覇権を弱め、通貨体制の多極化につながることがあるかも。フェルナンドは、そんな日本発の世界金融危機を「ツナミ」と表現しているように解釈できる。
 前述のブルーグバーグ記事にも《日銀が指し値オペで許容する長期金利利回りの上限0・25%が徐々に引き上げられ、目標自体も制御できなくなる可能性もある》との指摘があった。
 そんなことは起きて欲しくない。それを抑えられるのは、日本の日本人だ。もちろん海外有権者票もあるが、大半は日本国内だ。実は7月の参議院選挙は、今後の世界経済を左右する大きな節目かもしれない。(敬称略、深)

★2022年6月7日《ブラジル記者コラム》ウクライナ侵攻後にロシア貿易が激増=BRICS銀行は新世界秩序の要?
★2022年5月10日《記者コラム》ハリウッドVSボルソナロの戦い=後ろにいるのはあの超大物投資家?
★2022年4月26日《ブラジル記者コラム》日本はとっくにインフレでは?=日銀は頑なに「デフレ」と言い張るが

★2022年3月22日《記者コラム》基本金利14%はあり得るか?=戦争で2番底に向かうインフレ

最新記事