第13話―ブラジル人のプライド(その2)
話好き、話上手なブラジル人
次に、日本での管理者の基本である「報・連・相」であるが、これも組織という機械が問題なく動くための潤滑油であると云って、組織の中で縦、横への「報・連・相」が必要なことは何年も云い続けている。
だが残念ながら、話好き、話上手のブラジル人。自分の好きなこと、噂話は何でもベラベラ話してくるが、いざ仕事のこととなると全然だめである。特に自分に都合の悪い事は自分からは言ってこない。
一番残念(頭にくる)なのは労働事故で、他の部門から事故発生を耳にすることである。そこで安全第一、赤チン災害(軽微な事故)でも即報告させることを競争でやらせることで、報告・連絡がよくなり、災害件数が減少した経験がある。
「私は血を見ると卒倒するので事故は絶対しないでくれ。起こったら会議中でもいいから連絡してください。会議を中断して現場に行くから」と「報・連・相」の重要性を感じさせる雰囲気を作り、さらに毎朝のミテーングで週に一回は何かの実例をだして、これが、その「報・連・相」だとやり続け、身体に染みつかせることが重要です。
神様が全てのブラジル人
次に、日本人の感覚では手に負えないブラジル人の感覚がある。これは宗教感覚から来ていることであるが、良く使われる言葉で「セ・デーウス・ケ・キゼール(もし神様が望むなら)」、「デーウス・ケ・サーベ(神様だけが知っている)」という表現である。
「がんばれよ、しっかりやれよ」というと、この「セ・デーウス・ケ・キゼール(もし神様が望むなら出来るよ)」と返事が返ってくる。
本人の意志はどうなっているのか、まるっきり他人まかせで「出来なくたって俺のせいではないぞ、神様のせいだ」と先手を打っているみたいで、一番嫌な言葉であり、がっかりしてしまう。
私は、こういう奴に、「ノン・エ・デーウス・ケ・キゼール、ボセ・ケ・テン・ケ・ケール(神様でなく、おまえがその気にならんか)」と言ってやる。
また、何かものごとを尋ねるたり、難しいことにぶつかると、「デーウス・ケ・サーベ(神様だけが知っている)」と逃げられてしまい、真剣に考え、答えようとしない。
こんな時は、「ボセ・エ・デーウス、ボセ・サーベ(お前は神様だ、お前が知っている)」とやり返してやる。このように、他人まかせで自主性が全くない。さらに失敗したり困ったときには「ペーロ・アモール・ディ・デーウス(神の愛にために)」と言い、「なんてこった!!」「お願いですから!!」という意味も神様のためとなってしまう。
これらもまた“マイゾウ・メーノス”の世界での言動であり、小さいときからカトリックの教義で育って、「すべてが神様、何でも神様」という考えが頭にしみ込んだ表現、言動、考えなのであろう。これでは神様が皆の責任を背負って大変である。
あやまることを知らないブラジル人
ブラジル人は間違ったこと(ミス、へま)をしても謝らないということには皆さもんも戸惑っているかもしれない。
日本人ならば、まずは謝って、それから間違ってしまった説明をする。これは仏法的思想からで、自分の周囲で起きる物事は自分に起因しているという思想からで、子供の頃から親に叩きこまれてきている。
ところがブラジル人のほとんどはカトリック教徒で、万物の現象は神の仕業であると教えているから、手に持ったコップを滑らして床に落とし壊してしまっても、「コッポ・ケ・カイウー(コップが落ちた)」、もっとひどいと、「コッポ・ケ・カイウー・ソジーニョ(コップが勝手に落ちた)」という表現になってしまう。
これが操作のミスで機械が故障して「マキナ・ケ・ケブロウ(機械が勝手に壊れた)」ときたら、あいた口が塞がらない。ここで一息いれて「ポルケ・マキナ・ケ・ケブロウ?(どうして機械が勝手に壊れたの」と聞き返せれば素晴らしい。
とにかく、云い分けは上手で、淀みなく話してくるので、相手の話を整理して「なぜ?それで?どうして?」と聞き直す冷静さは必要かも。
私は若かりし頃は、短気で「マキナ・ノン・ケブラ・ソージニャ、ボセ・ケ・ケブロウ!(機械は勝手に壊れない、お前が壊したのだ)」と怒鳴っていた、相手は委縮して何も話さなくなってしまっていた。
車の事故を見てもそうである。車同士が衝突した現場では、ぶつかった車をそのままにしてお互いに罵り合っているところを良く見かける。車が渋滞しようがお構いなし。挙句の果ては、道を塞いでいる車をそのままにして、延々と道路警察が現場検証に来るのを待つようになる。要するに「自分は悪くない、相手が悪い」という態度なのである。
ブラジル政府もプライドが高い
ブラジル人のプライドの高さは、国際間の問題でも見られる。アメリカで発生した同時多発事件以来、アメリカへの入国審査が厳しくなり、指紋照合を義務付けされた時、ブラジルはいち早くアメリカ人の入国に対し対抗策として入国審査でアメリカ人専用ブースを指定して、長蛇の列を作らせ、1~2時間待ちに、そして苦情をつけたアメリカ人のクルーにブラジル国内法を適用し強制帰国まで行った。
また、FTAA(米州自由貿易圏)交渉ではブラジルは大国アメリカに反発し続け、南米共同体(メルコスール)で主導権を握り対抗し続けている。ルーラ大統領、ジルマ大統領共にアジア、ヨーロッパ、アフリカ諸国と積極的に外交を進め開発途上国の中でリーダー的存在観を強めている。また国連でも常任理事国枠拡大に沿って常任理事国になろうと外交を重ねている。