ポルトガル総選挙極右躍進=ブラジル人に穏健姿勢の理由とは?

シェガ党党首のアンドレ・ヴェントゥーラ氏(中央)(シェガ党公式インスタグラム@partidochega)
シェガ党党首のアンドレ・ヴェントゥーラ氏(中央)(シェガ党公式インスタグラム@partidochega)

 ポルトガルで18日に実施された総選挙では、移民が重要な論点となった。躍進を遂げた極右政党シェガ(Chega)は反移民を掲げ、選挙戦でも移民問題を中心テーマに据えた。一方で、ブラジル人移民に対しては比較的穏健な姿勢を取っている。これは、シェガの支持基盤に一定数のブラジル人が含まれ、党首アンドレ・ヴェントゥーラ氏が、ボルソナロ前大統領をはじめとするブラジル国の右派政治家と連携を深めていることが背景にあると見られる。そのため、ヴェントゥーラ氏の移民批判は主に非ポルトガル語話者のアジア系移民に向けられており、ブラジル人への直接的な攻撃は避けられていると19日付BBCブラジル(1)(2)が報じた。
 ポルトガルには現在、50万人以上のブラジル人が住んでおり、同国の外国人コミュニティで最大だ。2023年にはその数は51万3千人となり、20年の約27万6千人から約85%増加した。急増の背景には、ポルトガルの気候や治安の良さ、ユーロ通貨、共通言語、学歴や職歴の認証手続きの簡素化などの制度的な利便性がある。移民層は建設業などの低賃金労働者から医療、法務、テクノロジー分野の専門職まで多様だ。
 ブラジル人移民は有権者としてもポルトガル選挙に影響を及ぼし始めている。ポルトガルでは合法的に2年以上居住していれば、市民権を持たずとも投票権を得られる。そのため多くのブラジル人移民が実際に投票を行い、政治的な影響力を高めている。
 ヴェントゥーラ氏はブラジル人移民との関係を政治的に活用、同氏の主張は一部のブラジル人移民の共感を呼ぶ。前回選挙ではボルソナロ前大統領が、「ヴェントゥーラが首相の座に就くことが重要だ。これは右派、保守、善良な人々の勝利だ」と述べた動画をポルトガル国民に向けて発信した。
 ヴェントゥーラ氏は23年にリスボンで行われたルーラ大統領への抗議デモを主導するなど、ブラジル国内政治に対しても積極的な姿勢を見せる。ルーラ大統領に対し、「ロシアへの接近、南米独裁政権への曖昧な姿勢、汚職体質」を強く批判。ヴェントゥーラ氏の政治的言動はしばしばボルソナロ氏の主張と重なり、「レイプ犯への化学的去勢」など物議を醸す政策にも共通点がある。
 今選挙では、中道右派の民主同盟(AD)が得票率32・7%を獲得して第1党となったものの、単独過半数には届かず、89議席を獲得。一方で、極右のシェガは前回よりも議席を増やし、社会党(PS)と並んで58議席を獲得。得票率ではPSが23・4%、シェガが22・6%と僅差で、シェガは第二勢力としての地位を確立した。6年前に設立された新興政党シェガが勢力を築いた背景には、移民問題を選挙戦略の中心に据えたことがある。
 近年ポルトガルでは「頭脳流出」が続く一方で、移民流入が急増。国内の平均月収は約2千ユーロで、欧州連合の平均3155ユーロを大きく下回る。このような経済状況の中で、移民は不足する労働力を補う存在として重要な役割を果たす。ポルトガルに居住する外国人は、総人口の約14%を占める約150万人で、10年前の3倍に相当。移民社会移行が急速に進む。
 同国へはアジア系、特にインド、パキスタン、バングラデシュ、ネパールなどからの移民が増加。彼らはポルトガル語を話さないため文化的な統合が難しく、それが移民への反発や排斥感情を助長し、極右勢力の支持拡大に繋がっているとされる。
 ポルトガルにおけるブラジル人移民の増加は政治、経済、文化の各面で大きな影響を与えており、今後も選挙や社会政策の重要な論点となると見られている。

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