世界で最も混血が進んだ国=ブラジル人のゲノム解析で明らかに

多様な顔をしたブラジル人(Roberto Parizotti)
多様な顔をしたブラジル人(Roberto Parizotti)

 ブラジル人のゲノム(遺伝情報)を対象に、これまでで最大規模の詳細な解析が行われ、ブラジルが世界で最も混血の進んだ国であることが科学的に明らかになった。この研究はサンパウロ大学(USP)を中心としたチームが国内各地から2723人のゲノムを高精度に分析し、2025年5月15日付の科学誌「サイエンス」に発表した。
 調査結果によると、ブラジル人の平均的な遺伝的構成はヨーロッパ系が約60%、アフリカ系が約27%、先住民系が約13%だった。従来は先住民系の割合は10%以下とされてきたが、北部地域の先住民の遺伝的影響を反映し、今回の解析で大幅に増加した。地域ごとにも差が明確で、南部や南東部はヨーロッパ系が優勢、北東部はアフリカ系が多く、北部・中西部では先住民系の割合が高い傾向が示された。
 男女間の祖先構成には顕著な非対称性が見られた。男性のY染色体の約70%がヨーロッパ系を示す一方、女性のミトコンドリアDNAでは42%がアフリカ系、35%が先住民系だった。この非対称性は、植民地時代にヨーロッパ系男性が非ヨーロッパ系女性と子孫を多く残した歴史的背景を反映し、「DNAに刻まれた歴史的な暴力」とも表現される。特に先住民男性が急速に人口から消えたことも示している。
 研究責任者のリジア・ダ・ヴェイガ・ペレイラ氏は、「これまで十分に研究されてこなかったアフリカ系や先住民系のゲノムを包括的に解析し、世界でも前例のない800万以上の新規遺伝子変異を発見した」と述べ、ブラジル人の遺伝的多様性が想像以上に広範であることを強調した。
 この膨大な遺伝子データは医療分野に革新的な可能性をもたらす。高血圧やがんなど数百の疾患に関係する遺伝子が特定され、個人の遺伝的リスクに基づく予防や治療計画が可能となる「精密医療」の発展が期待されている。将来的にはリスクの高い人は若年から検査を開始し、リスクの低い人は検査開始を遅らせることで医療費削減にもつながる見込みだ。
 さらに今回明らかになったブラジル人のDNA多様性は、中央アフリカやイベリア半島出身の祖先集団に関する新たなゲノム的知見も提供し、世界の遺伝学研究に大きく貢献するとされる。ブラジルは未研究の先住民やアフリカ系、南欧系の遺伝的多様性の巨大な保管庫であり、研究者にとって貴重なデータベースとなる。
 一方で、混血の歴史は必ずしも平和なものではなかった。植民地時代の性暴力や奴隷貿易の深い影響がDNAに示されている。アフリカ系女性の約80%が望んでヨーロッパ系男性と関係を持ったとは考えにくく、先住民男性の消失もその悲しい歴史を物語るものだ。
 今回の大規模DNA解析は、ブラジル人の多様な遺伝的ルーツとそれに伴う健康リスクを科学的に理解し、医療や社会政策の未来を切り開く画期的な成果である。混血の多様性こそがブラジルの強みであり、過去から多くの苦難を乗り越えてきた証しでもあると言えそうだ。(1)(2)

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